About Sneaker & About Sneaker Culture by THOMAS SAILER(adidas Japan)
via
SHOES MASTER
Web SPECIAL
本誌最新号とウェブスペシャルでも掲載した
アディダスのキーマンへのスペシャルインタビュー。
今まで語られることのなかった
トーマス・タイラー副社長(アディダスジャパン)が想う、
「スニーカーの魅力」について。
世界から見た東京の「スニーカーカルチャー」とは?
など、核心を突く記事を抜粋して紹介する。
About Sneaker
–––あたらめて、トーマス副社長が考える「スニーカーの魅力」とはどういったところでしょうか?
スニーカーの魅力、ストリートウェアの魅力を考えると、アディダスはスポーツの歴史が根付いていることが大きいと思います。スーパースターの歴史だけを考えても、最初はバスケットボールシューズとして作られたものが、ヒップホップグループのRun-D.M.C.(ラン・ディーエムシー)が履いたことでストリートにもファッションとして拡がり、そこからさまざまなシーン、人に興味を持ってもらったことで、世界中に広まり成長していった。スニーカー、音楽、アート、写真など、異なるさまざまなカルチャーの垣根を越えて、それぞれの形で愛されて支持されてきた。すごく素晴らしいと思いますね。なので、ストリートカルチャーのアイコン的な存在がスニーカーであり、それがスニーカーの魅力だと考えています。
–––アディダス オリジナルスのスニーカーの魅力はそこに尽きると
そうですね。やはり歴史の深さに尽きますね。定番モデルのスタンスミス、スーパースターをみても、スポーツオーセンティック、本物のスポーツブランドのスニーカーだから魅力があるんだと思います。オリジナルスのトレフォイル(三つ葉)ロゴマークが付いたモデルにも「すべてスポーツのヒストリーとテクノロジーがある」、そこが差別化の肝だと思います。例えば、LA トレーナーの踵部分にスティックがあります。これは1984年にロサンゼルスで国際大会が開催された時の最新テクノロジーを使って作られた歴史があります。単なるデザインではなく、当時はイノベーションとしてすごく輝いていたわけですよね。今、様々なスニーカーブランドがある中でも、アディダスには長い歴史があり、ヘリテージモデルが豊富で、その一足一足の背景にオーセンティックなスポーツの歴史がある。そこにアディダスのスニーカーの魅力が詰まっていると思います。
–––アディダスはスポーツとストリートカルチャーとの相性がいいと感じます
ストリートカルチャー、文化とのコネクションは絶対に必要ですよね。その代表例として、スーパースターは、ラン・ディーエムシーがピックアップしたから有名になったと歴史が証明しています。さらに、当時の最新テクノロジーのブーストを搭載したウルトラブースト OGトリプルホワイトをラッパーのカニエ・ウェストが履いてくれたんです。その結果、パフォーマンスランニングシューズが世界中に爆発的に拡がり、一瞬でスニーカーのアイコンのひとつになった。スポーツと音楽の結び付き、それが今もアディダスの魅力になっているんでしょうね。
–––それではインラインとコラボレーションについて、それぞれの考え方を教えてください
インラインモデル(一般的な販路で広く流通するモデル)は、開発のプロセスがすごくデリケートなんですよね。新しいシルエットを開発するときは、常に細心の注意を払ってビルドアップしていかなければいけません。インラインモデルの成功例としては、1980年代のアーカイブモデルからインスピレーションを得てブーストを搭載したモデルのNMDです。2016年12月、東京ではアンディフィーテッド限定でローンチし、即ソールドアウトしましたが、しばらく一般発売はしませんでした。ものすごい反響だったので、売れると分かっているならば、普通は全てマーケットに流してしまえ、となりますが、そうしたら絶対にスニーカーのアイコンにはなり得ない。売上だけでなく、売り方も含めて考えていかなければなりません。NMDにおいては、コラボレーションなしでスニーカーのアイコンを作り上げることができたインラインモデルの成功例だと思います。
–––コラボレーションモデルを作るよりも、インラインモデルを作るほうがはるかに大変で難しいのでしょうか?
その通りです。インラインモデルで成功を収めるのは非常に難しいことです。パートナーシップ契約を結んでいるファレル・ウィリアムスとのコラボレーションを通じて新しいモデルを紹介することで、より多くのスニーカーファンに知ってもらえるきっかけが生まれます。通常のファッションブランドやアーティストとのコラボレーションは、インラインモデルの魅力があるからこそ、さまざまなクリエイターやブランドからオファーを戴けているので、今後も我々は魅力的なインラインモデルを作っていかなければなりません。
–––苦労して作り上げたインラインモデルも定番になるモデルとならないモデルがありますよね
アディダスのようなグローバルブランドになると、全世界に向けてインラインモデルの開発をするわけです。ですが事実として、北米、ヨーロッパ、アジアで好まれるテイストがそれぞれ違っています。全てのインラインモデルがグローバルレベルで成功するのは難しいことです。満を持してローンチをしても、マーケットによっては消費者にあまり受け入れられなかったりもします。
–––定番モデルはメーカー側が作ろうとしても、作れるものではないという?
意図的に定番モデルを作るのは難しいですが、アイコニックな定番モデル、例えばガゼルのようなモデルは、ビッグスケールな人気ではなくても、ものすごくコアなファンが残っていたりするんです。歴代のアイコンモデルには少なからずファンが存在するわけです。大規模に何千足、何万足とは売れないけれど、コアファンがいるモデルに関しては機を見て必ずリリースするようにしています。
About Sneaker Culture
–––東京(日本)のスニーカーマーケットは、今も世界に影響力を持っていると思いますか?
はい、もちろんです。それは日々実感しています。アディダス本社があるヘルツォーゲンアウラッハはドイツの小さな村で、パリ、ニューヨーク、ロンドン、東京のような大都市ではありません。グローバル製品を開発するために、どの都市からインスピレーションを得たいかを考えた結果、東京が選ばれました。それ以来、東京にもプロダクトクリエイションオフィスがあります。東京のオフィスでは日本だけではなく、グローバルのモデルも開発しています。
–––トーマス副社長が感じる東京のスニーカーカルチャーの特徴とは?(他国と比べて)
日本のスニーカーカルチャーは、他国と比べてオーセンティックだと思います。オーセンティックとは、あまりコマーシャル性、商業性がないということです。北米や中国は、リセールマーケット(転売市場)が盛んで「売れそうなスニーカーを取りあえず買って、後で売ってお金にしよう」という傾向が強い。もちろん、東京にもこのような風潮は存在しますが、スニーカーが大好きで自分で履くために買っている、という人が多い気がします。シルエットやブランドそのものが好きだから履いている感じでしょうか。作る側もスニーカーが大好きだから作りたい人が多く、コラボレーションで協業するクリエイターもクラフトマンシップと情熱を持っている人が多い印象です。もちろん、ビジネスも大切だけれども、収益を上げるためだけに作るという人は少ないと感じています。日本においてアディダスが支持されている理由のひとつは、アディダスは靴職人の息子として誕生したアドルフ・ダスラーが作ったシューメーカーであるということ。アドルフ・ダスラーはマテリアルとディテールに強くこだわる職人でした。アディダスのクラフトマンシップと日本の職人文化と共鳴し、共感を得ているのだと思います。