Text : Masahiro Minai
Photo : Yoshito Yanagida

HOKA ONE ONE
It Is Time To Fly!

フランスで誕生し、アメリカで飛躍した
ホカ オネオネの開発拠点に迫る。

現在、最も飛躍が期待されるブランド、ホカ オネオネ。その開発拠点はアメリカ・カリフォルニア州のサンタバーバラにある。我々編集部は、ワールドワイドで快進撃を続ける秘密を探求するため、本社を訪問。4名のキーマンと、2つのキーショップに話を聞くことに成功した。

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The origin of HOKA ONE ONE

ホカ オネオネ誕生秘話

Deckers Innovation Vice President
Jean Luc Dearard
Interview

ランニングシューズ業界で目覚ましい成長を記録しているホカ オネオネ。創業メンバーの一人であり、デッカーズ イノベーション副社長のジャン・リュック・ディアード氏に、いかにしてこのブランドを誕生させることになったかをインタビューした。

Deckers Innovation Vice President
Jean Luc Dearard
Interview

「私とニコラ・マーモッドが、ホカ オネオネというブランドをスタートさせることになったひとつのキッカケが、他のスポーツカテゴリーと比べてランニング、特にトレイルランニングの道具の進化のスピードが遅いと感じていたことです。当時、若いトレイルランナーでもヒザの故障を抱えていたりして、私たちは彼らの悩みをなんとか解決したいと思いました。それまでスキー、ゴルフ、サーフィンといったカテゴリーにも携わっていましたが、これらの業界では1980年代と21世紀に入ってからでは全く別物のように道具が進化していたのに、山を駆け下りるためのトレイルランニングシューズでは、30年近く経過した2009年当時、‘80年代のシューズと比較してもあまり変化がなかったのです。

そしてアドベンチャーレースや100マイルレースのような過酷な競技で、最後まで競技者を保護するシューズを完成させることができれば、健康のために数マイル走っている人たちにとっても有用なはずだと思っていました。そんなときに閃いたのが、“走るときのストライドを車輪が回転するように、より流動性がある動きにするシューズがあれば、走りをより効率化することができ、どんなに長距離のレースでも従来よりもアスリートへの脚の負荷を大幅に軽減できるはず”ということです。こうして、着地からシューズがローリングして蹴り出す、という一連の動きを、水が流れるように効率化するシューズの開発がスタートします。言い換えれば、少ない力で最大の効果を発揮するシューズですね。」

ジャン・リュック・ディアード
デッカーズ イノベーション副社長。ホカ オネオネの創設者であり、現在はデッカーズの全ブランドのイノベーションチームを率いて、先進かつ革新的なプロダクトの開発に邁進している。

「まず着手したのが、アウトソールの形状をかかとからつま先にかけてロッカー(ゆりかご)状にしたこと。これにより、着地から蹴り出しまでが伝統的なランニングシューズよりもスムーズで、自然と足が前に出るような感覚が提供できるようになりました。そして次に行ったのがシューズのロードロップ化、つまりかかととつま先の高低差を低くして、自然な走り心地を提供しようと思いました。従来のランニングシューズでは10mmから12mm程度の高低差があることが一般的でしたが、我々のシューズは4mmほどにしました。実際に履くと、体重で後部が潰れて2mm程度の高低差になると思いますが。ロードロップのシューズは長距離を走るランナーの消耗をより効率的にサポートすることができるのです。そして柔軟かつ軽量なミッドソールを、上方に大きく巻き上げる構造を採用することで高い衝撃吸収性と安定性も確保しました。

このことによりサスペンションと自動車のバケットシートの組み合わせのように、ガタガタ道でも足をシューズの正しい位置にキープできます。ホカ オネオネのシューズは、クッション性に優れた分厚いミッドソールだけに注目が集まりがちですが、いくつものこだわりのスペックを結集しているのです。こうして誕生した最初のシューズ“マファテ”は、脚への負担を極力減らすことで、従来にない効率的な走りをトレイルランナーに提供することができました。そして私たちのシューズはトップアスリートだけでなく、現在ではファンランナーにも受け入れられています。このことは“ランニングをより簡単なものにできるシューズを作りたい”というもうひとつの自分の想いも実現できたといえるでしょう。」

Place where
HOKA ONE ONE
is developed

ホカ オネオネの生まれる場所
フランスのアネシーで誕生したホカ オネオネ。現在は世界屈指のフットウェア企画製造グループであるデッカーズに属し、カリフォルニア州サンタバーバラに開発拠点を置く。今後どのようにブランドを展開していくかを、同社のパフォーマンスライフスタイルブランド社長のウェンディ・ヤン氏に聞いてみた。

Wendy Yang
Deckers Performance
Lifestyle Brand President
Interview

「ホカ オネオネはひと言でいえば“異端”、すなわち独自路線を行くブランドだと思います。言い換えれば“勇敢”“大胆”“他と異なった”ブランドであり、プロダクト自体はもちろんのこと、マーケティングやプロモーションに関しても、そうであるように活動しています。ランニングシューズマーケットには沢山のブランドやモデルが存在していますが、正直言うとブランドラインやカラー、デザインが多少異なっているくらいで、実際に履き比べても履き心地や走行感は大きく変わらないと思います。しかしながらホカオネオネのシューズは、足を入れて立っているだけで一般的なランニングシューズとの違いはすぐに理解できると思いますし、走ったらその差異をより一層体感できます。」

「今後のマーケティング目標としてはブランドの認知度を向上させたいですね。現在はトライアスロンのアイアンマンシリーズや、ハワイ島コナで開催されるアイアンマン世界 選手権で着用率第1位に輝くなど、レースにも積極的にエントリーする中級以上のランナーからの支持が高いのですが、今後は健康を維持するために走っているフィットネスランナーや、走ることを純粋に楽しんでいるファンランナーのような層にもブランドを知ってもらいたいと思います。

そのためにフパナ(日本未展開・日本では2017年夏より展開予定)のようなライフスタイルシーンからランニングまで1足で対応するプロダクトの展開もスタートさせました。私たちのブランドはランニングカテゴリーから出発しましたが、将来的にはランニングに関連した他のスポーツカテゴリーに進出するかもしれません。それぞれのスポーツに本当の意味でマッチしたシューズを開発することは容易ではありませんが、幸運なことに私たちには創業者のジャン・リュック・ディアードを始めとした優秀なエンジニアが揃っていますので、いつか他のカテゴリーでも成功できることを信じています。」

ウェンディ・ヤン
デッカーズ パフォーマンスライフスタイルブランド社長。デッカーズのパフォーマンスライフスタイルブランドであるTEVA、SANUK、HOKA ONE ONEの3ブランドの責任者として、各ブランドのビジネス戦略やブランドポジショニングの確立にリーダーシップを発揮している。

HOKA ONE ONE
present and future

ホカ オネオネの現状と未来
アメリカのランニングシーンで確固たるポジションを築くことに成功したホカ オネオネ。グローバルマーケティングのシニアディレクターであるリー・コックス氏に、現在のマーケット状況、今後の戦略を聞く。

Lee Cox
Global Marketing Senior Director
Interview

「アメリカ市場においてホカ オネオネが最も優先してきたマーケティングのゴールは、ブランドの認知度を向上させることでした。私たちはニューバランスやサッカニーといった既存のブランドと比較すると当初は小さな存在でしたが、ソーシャルメディアを効率的に活用することなどで、ここ数年急速に知名度を上げることができたと思います。プロダクトが素晴らしいのはもちろんのこと、そのこともアメリカのランニングマーケットで成功できた一因だと思います。そして2016年は、ホカ オネオネにとって素晴らしい年になりました。トレイルランニングの最高峰レースのひとつであるUTMBで、男女ともに契約アスリートが1位になりましたし、リオデジャネイロ五輪にはトラック競技で1名、トライアスロンで2名が出場しました。そしてトライアスロンでは、ハワイ島コナで開催されたアイアンマン世界選手権で契約アスリートが女子の3位になりました。」

「ホカ オネオネというブランドはトップアスリートだけを対象にしているのではなく、すべてのレベルのランナーに愛されることを目指しています。そのためにyoutubeでは“Sweet Cushion”と名付けられたプロモーションビデオを作成。マシュマロの着ぐるみを着たクリフトン3を着用したランナーが登場するこのビデオは、300万回近い再生を記録し、ホカ オネオネの高いクッション性をコミカルな内容ながら効果的に伝えることに成功しました。今後のマーケティング活動の目標は、現在確固たる地位を築いている男性の中級以上のランナーにおけるシェアをキープしつつ、女性ランナーのシェアやビギナー層におけるシェアを拡大することですね。ランナーから本格的な展開の要望の多いアパレルですが、ブランド創業の原点がランナーの抱く問題点を解決する手段として、最初のシューズを開発したことなので、本当の意味でランナーの要求を解決できるアパレルが開発できれば参入するかもしれませんね。」

リー・コックス
ホカ オネオネ グローバルマーケティングシニアディレクター。プロフェッショナルランナーとして活躍した実績と、ランニング業界のセールス、マーケティング、マーチャンダイジングにおいて長年リーダーとして活躍してきた経験を持っている。

HOKA ONE ONE
IS EVOLVING

進化するホカ オネオネ
現状に甘んじることなくシーズン毎に進化を続けるホカ オネオネ。シニアプロダクトラインマネジャーのアンドリュー・コンリー氏に、今後の商品戦略を聞いた。

Andrew Conley
Senior Product Line Manager
Interview

ホカ オネオネと他のブランドの最も大きな違いは、クッション性と軽量性を両立している点でしょうね。足の保護性も高くて、衝撃吸収性も優れているのに軽いというシューズを作ることは本当に大変で、他ブランドのクッション性の高いシューズは私たちのシューズほど軽くないです。これまで好評を得ていたクリフトンやボンダイといったコレクションに加えて、トレーサーのようなミッドソールが従来のホカ オネオネのシューズよりも薄いタイプもリリースしましたが、これはミッドソールの薄いタイプを作ろうとして開発がスタートしたわけではなく、より幅広いタイプのランナーに私たちのブランド独自の走り心地を体感して欲しくて、その結果がこのミッドソールのスペックだったのです。今後も様々なランナーに対応すべく、新たなテクノロジーを採用し、クッション性を損なうことなく安定性を確保したスタビリティタイプや、スピードを求めるランナーに向けたコレクションもこれまで以上に充実させていく予定です。ご期待ください。

アンドリュー・コンリー
ホカ オネオネ シニアプロダクトラインマネジャー。ランニングシューズのプロダクト担当として豊富な経験を持っており、ホカ オネオネの商品開発におけるキーパーソンの一人。

Superiority of
HOKA ONE ONE

ホカ オネオネの魅力
特にアメリカのランナーに愛されているホカ オネオネ。その理由と魅力を主要取扱ショップであるビレッジランナーに聞く。

village runner
Interview

ホカ オネオネは現在私たちのショップにおけるブランド別売り上げで、ブルックス、サッカニー、アシックスに次いで4位です。他ブランドが売り上げを落とすなか、ホカ オネオネは新しいタイプのシューズを試したいというランナーから注目を集めていて、昨年対比で200%~250%といったセールスを記録してきました。このブランドのシューズはクッション性に注目が集まりますが、個人的にはドロップが4mm~5mmと少ないことによって、正しい姿勢が取れるということも注目されるべきだと思いますね。自分も実際に履いていますが、本当に走りやすいシューズだと思います。以前は特徴のありすぎるデザインのせいで女性ランナーからは敬遠されていましたが、最近はクリフトン3を始めとしてスタイリッシュなモデルがリリースされることによって、女性ランナーも増えていますよ。ちなみに一番売れているホカ オネオネのモデルはクリフトン3です。」

ビレッジランナー
マンハッタンビーチとレドンドビーチに店舗を構えるランニングスペシャリティストアであるビレッジランナー。ランナー目線で厳選されたランニングギアが揃う。

Attraction of
HOKA ONE ONE

ホカ オネオネの魅力
ホカ オネオネの開発拠点からも近くスタイリッシュなギアが満載のサンタバーバラ ランニング クラブでも聞いた。

SANTA BARBARA
RUNNING CLUB
Interview

ホカ オネオネというブランドに対する印象は、クッション性とトレイルランニングですね。オンロードでもトレイルでも背中や腰、ヒザを痛めるランナーは少なくないのですが、“このブランドなら安心して走ることができる!”という声は少なくないです。実際にショップの売り上げでもホカ オネオネは好調です。既存のブランドが横ばい状態なのに対し、ホカ オネオネは首位争いを繰り広げています。自分自身が実際に履いて走った感想は、マファテやボンダイといった初期から展開されているモデルは、自分にはミッドソールが厚すぎてクッションがありすぎたのですが、最近になって登場したクリフトンやチャレンジャーATRといったモデルはクッション性も適度で、4mm~5mmドロップの構造も自分にピッタリで本当に走りやすいです。最近リリースされたクレイトン(日本未展開・日本では2017秋から展開)も反発性が高くて、自然とスピードに乗れるので、お気に入りの1足になっています。

サンタバーバラ ランニング クラブ
ホカ オネオネの開発拠点からも近いサンタバーバラにあるランニングショップ。注目のランニングブランドであるrabbitも扱うなど、スタイリッシュなギアが満載。

デッカーズグループの本拠地のあるのはサンタバーバラ郊外。温暖な気候もあって、一年中様々なスポーツを楽しむ人が多い。ランナーズパルス編集長南井正弘が実際にホカ オネオネのランニングシューズを履いて、デッカーズグループのヘッドクォーター周辺でトレイルランニング、ロードランニングを楽しんだ。

Running with
HOAKA ONE ONE
TRAIL

ロサンゼルスから北へ110マイル(約180km)ほどの位置にあるサンタバーバラ。厳密にはリゾートタウンとしても有名で、著名なムービースターも住んでいるというこの街からハイウェイで10分程度のゴリータという小さな街に、ホカ オネオネをオペレートするデッカーズの本拠地はあるが、車でほんのちょっとドライブするだけでトレイルランニングを楽しむことができるロケーションに到着する。電車を何本も乗り継いで高尾や青梅といったトレランスポットにようやく到着する東京のトレイルランナーからすれば、同社の社員は本当に羨ましい存在だ。今回走ったサンタバーバラの山は日本の一般的なトレイルランニングのコースと異なり、なだらかな地形で上りも無理なく走れるタイプであり、初心者でも楽しめそうなコース。

地面は雨が少ない土地柄のためにかなり固く、どちらかというとアウトソールの刻みが深くないチャレンジャーATR3で走ったが、路面に引っ掛かり過ぎることもなくベストマッチ。「これならオンロードタイプのクリフトン3でも走れるのでは?」と思ったほどであった。山頂から眺める街並みと太平洋は最高で、こんな素晴らしい景色のなかを走れるのなら毎日でも走りたいと思うランナーは少なくないだろう。

南井正弘

Running with
HOAKA ONE ONE
ON ROAD

サンタバーバラの市街地から近い海沿いの公園、ショアラインパークを、トレイルコースでもガイドをお願いした、デッカーズでホカ オネオネのマーケティングアソシエイトを務めるスージー・クラークと一緒にファンラン。東京のような都心で走るのとは異なり、少し走っただけで信号に止められるということもなく、雄大な太平洋を眺めながら自分のペースで走ることができるのは、まさに最高な気分。ちなみに毎年「サンタバーバラベテランズデーハーフマラソン」が11月11日の退役軍人の日の前後に行われていて、その大部分は太平洋を眺めるというコースだ。どちらかというとアップダウンがあるコースなので、自己記録を更新したいというランナーにはオススメできないが、ファンランで走るなら最高の大会かもしれない。

ちなみにサンタバーバラという街はサーファーの間でも有名であり、海沿いの高級リゾートホテル以外に彼らが長期滞在できそうな安い宿も点在する。ステート通りを中心とした市街地はこじんまりしていながらも、多くのブランドショップが軒を並べているので、前述の「サンタバーバラベテランズデーハーフマラソン」に参加すれば、ランだけでなく買い物も思う存分楽しむことができるだろう。

南井正弘

HOKA ONE ONE
It Is Time To Fly!

フランスで誕生し、アメリカで飛躍した
ホカ オネオネの開発拠点に迫る。

 
INFORMATION
デッカーズ ジャパン 0120-710-844
www.hokaoneone.jp

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