Photo : Masataka Nakada(STUH)
Interviewer & Edit & Text : Shin Kawase

Mizuno Sports Style's
Two Faces and Two Keymen
WAVE MUJIN TL & WAVE PROPHECY β

今ではスニーカーファンにとってなくてはならない存在として、その地位を確立しているミズノ。その誕生の舞台裏にはこの2人の存在が不可欠だった。出会うべくして出会った2人が織りなすプロダクトにはスニーカーファンを惹きつける何かがある。その何かを探るため、キーマン2人を取材した。(インタビュー取材:2022年8月下旬)

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Shigeyuki Kunii (mita sneakers)&
Takeshi Saito(Mizuno Sports Style)

国井栄之 / ミタスニーカーズ クリエイティブディレクター
1996年、ミタスニーカーズに入社。プレスを経てマーチャンダイザーとして仕事の幅を広げながら、入社2年目に会社にも内緒の直談判により当時は未知であったコラボレーションを実現。現在は、クリエイティブディレクターに就任し同店を率いる立場であり、スポーツ・アウトドア・ファッション・ラグジュアリーに至るまで、様々なジャンルのブランドとのコラボレーションや、インラインのディレクションを数多く手掛けている。

齊藤健史 / ミズノ株式会社 グローバルフットウエアプロダクト本部
企画・開発・デザイン部ライフスタイル企画課所属兼デザイン課所属

大学卒業後に一般企業に入社。その後、その企業を退社してシューズの専門学校で2年間靴作りを学んだ後、外資系スポーツブランドに入社し10年在籍。その経験を生かして、2017年にミズノに入社。ランニングシューズを担当しながら、ミズノのニューレーベル“rhrn”(アールエイチアールエヌ)を立ち上げる。現在は、KAZOKU、rhrn、ミズノスポーツスタイルのインラインとすべてのコラボレーションモデルを手掛けている。

–––まず、お2人の出会いから教えてください
齊藤 僕が高校生の時に読んでいた雑誌『ブーン』や『サムライ』に国井さんが出られていたのでずっと一方的に知っていました。その時はもちろん、お話をしたこともありませんでしたけど。その時から僕にとって国井さんは教祖様的な存在なんです。大学生になるとニューバランスのMT580の抽選でミタスニーカーズに並びに行ったりしていました。その時もまったく接点はなかったです。実際にお会いしたのはそれから随分経ってナイキジャパンに入社してからですね。

–––その時のことを国井さんは覚えていますか?
国井 はい。僕が最初に認識したのは、齊藤くんがヒコ・みづの時代にインターンとしてナイキジャパンに行ってるとき。めちゃくちゃ優秀なインターンがいるってナイキスタッフから聞いてて。忖度なしにしゃべると、ヒコ・みづのを卒業したからと言って、すぐにナイキジャパンに入社するって相当難しいじゃないですか。卓越した英語力が必要だったり、即戦力重視で新卒も採用してなかったりと。その中でインターンからナイキジャパンに入る人が出るかもしれないっていう話を聞いて。そんなすごい人がいるんだと思ったことを覚えています。もう15年位前になりますね。

–––それでは仕事としてお付き合いが始まったのは?
国井 齊藤くんがミズノに入社してからなので2018年ですかね。“rhrn”(アールエイチアールエヌ)を立ち上げる前にミズノの東京チームスタッフと一緒にミタスニーカーズに来ていただいたのが最初ですね。まだ齊藤くんはスポーツスタイルではなく、大阪本社のパフォーマンスチームでランニング担当でした。

2019年2月、スニーカー業界に衝撃が走った。スポーツブランドの老舗、ミズノが発表したブランドのイメージを一新する新たなレーベル“rhrn”(アールエイチアールエヌ)。

齊藤 そうですね。国井さんはプロフェシーにすごく関心を持ってくださっていて、それからパフォーマンスの展示会に毎回必ず来てくださるようになって。その後、僕が東京のスポーツスタイルに移ることになったんです。

–––そこからKAZOKUプロジェクトがスタートするんですね
齊藤 はい。でも僕はスポーツスタイルのインラインモデル(一般流通)の担当だったので、KAZOKUプロジェクトはごく一部を担当しており、メーンはKAZOKUプロジェクトから派生したモデルのOGモデル、そのインラインモデルなどを企画・開発していました。

2018年2月。スニーカーヘッズにとっては、良く知っているけど一番遠い存在だったミズノから何の前触れもなくローンチされたKAZOKU。ミズノに免疫がなかったスニーカーヘッズにはセンセーショナルな出来事だった。「これを機に僕もお客さんの見方も180度変わったと思う」と国井氏は後に語っている。

国井 その時ぐらいからですね。齊藤くんがインラインモデルのライダー1、スカイメダルなど、次期シーズンのヒアリング目的でミタスニーカーズに来ていただいたのは。
齊藤 きっかけはそうですね。でも僕はミズノの中で“ミスター・プロフェシー”になりたかったんです。国井さんはKAZOKUプロジェクトの代表格としてライダー1やスカイメダル、モンドコントロールを再び世の中に広めてくださいました。その裏でパフォーマンスのプロフェシーの新作がリリースされると、どなたよりも早く国井さんがずっとインスタで上げてくださっていたのを見ていました。だから絶対に僕はパフォーマンスのプロフェシーじゃなくて、スポーツスタイルのプロフェシーで国井さんとご一緒したいと思っていました。なので、プロフェシーをスポーツスタイルでどういう風なアプローチにするか、というお話をずっとさせていただいていたんです。

–––スポーツスタイルのインライン担当者としての関係だったんですね
国井 そうですね。KAZOKUからスペシャルモデルを発信して、それからそのモデルをインラインとして改良してリリースする。もちろん、それも一緒にやるんですけど、KAZOKUとは真逆のことを齊藤くんとはいつも話をしていました。ミズノの最大の強みである競技者用の専門用具としてのプロダクトを、日本が陣頭指揮を取りながら、インラインモデルとして開発して日本から世界に向けて売っていく。ヘリテージモデルを現代に甦らせ、ヨーロッパを軸にグローバル展開するKAZOKUとは真逆に。その両方向で考えようと。

HAJIME SORAYAMA × MIZUNO
“WAVE PROPHECY SORAYAMA”

2021年2月。日本が世界に誇るアーティスト、空山 基氏と齊藤氏(ミズノ)との共作モデルのウエーブプロフェシー ソラヤマ。世界各地で瞬間的にソールドアウトし、ミズノの新たな時代の扉を開けた歴史的な一足。と同時に、アスリート用義足の板バネのデザインも空山氏と共同で開発され、競技者用の専門用具メーカーとしてのミズノの顔を世間に知らしめることとなった。

MIZUNO×IMASEN “KATANAΣ”
by HAJIME SORAYAMA

–––そうだったんですね。齊藤さんが入社後、ミズノも変化しましたよね
国井 そうですね。齊藤くんがミズノに入社したって聞いたとき、これでミズノは変わるかもしれないと僕も思いました。

–––実際に仕事をするようになると、それがより明確に?
国井 明らかに別格でしたね、齊藤くんは。すごいポテンシャルを感じました。ちゃんと物を作る人っていうか、本物のクリエイターだなと思いました。ナイキジャパン時代に僕が最初に会ったときは、かなり若かったので、次世代らしい「とがり方」もありましたけど、彼はもうすでにクリエイションする人だった。ミズノで直接仕事を一緒にするようになってからはもっと顕著になったというか。いい意味でミズノを壊そうっていう気概が感じられる「とがり方」をしてますよね。物の考え方もそうだし。多分、そういう人じゃないと会社や世の中は変えられないんじゃないでしょうか。

–––今の関係、お互いの役割を教えてください
国井 基本的には齊藤くんが考えるビジョンを共有してもらった上で、そこに対して個人的に思うことをフィードバックしてる感じなんです。その時のフェーズによるんですけど、サンプルが上がっていてフィードバックを求められるときもあるし、逆に頭の中だけのプランを聞かせてもらって、そこに対してディスカッションをするときもある。あとは、普通の単なる雑談も山ほどしてる。雑談の中から生まれるアイデアもあるので。齊藤くんと会うときは、基本フラットですね。
齊藤 国井さんは、僕の問い掛けに対して、150から200パーセント、時には300パーセントくらいにして返してくださるんです。それはやっぱり長年スニーカービジネスを見てこられた方なので、こういうものを狙ったほうがいい、こういう方向にいったほうがいいということをすごく端的にかつクリアに教えていただけるんです。考えさせられることが本当に多くて、国井さんってすごいなって毎回お話しするたびに思っています。だから僕は毎回ミーティングが終わると、考え過ぎて脳が疲れてへとへとになるんです(苦笑)。

 

WAVE MUJIN TL & WAVE PROPHECY β

ウエーブ ムジン ティーエルは分かりやすく言うと、
ミズノの温故知新モデルみたいな感じ
齊藤健史

–––2022年秋冬のメーンモデルについて教えてください
齊藤 メーンのひとつは、ウエーブ ムジン ティーエルのゴアテックスバージョンです。ウエーブ ムジン ティーエルは分かりやすく言うと、ミズノの温故知新モデルみたいな感じで、世界的に著名なシューズデザイナー、トゥアン・リー氏が過去に描いたデザイン画を基に、現代的なテクノロジーとして新しく設計されたパフォーマンストレイルランニングのソールを合わせたスポーツスタイルならではの一足になります。

Design drawing by Tuan Le (2007)

ミズノの歴史的傑作、ウエーブライダー1をデザインした世界的なフリーランスのシューズデザイナー、トゥアン・リー氏。齋藤氏はポートランドにある自宅を2019年夏に訪ね、膨大なデザイン画から上記の一枚を採用した。

齊藤 先シーズンにゴアテックスバージョンのブラックをリリースさせていただきましたが、今回は秋冬に特化したカラーリングかつ、もうちょっとマルチでカジュアルに履けるモデルになっています。アッパーのレイヤーもブラックの場合はワントーンでシームレスみたいな感じでしたが、今回もランバードロゴが全面に出るのではなく、全体のデザインの中でランバードが溶け込んでいる感じに仕上げています。

齊藤 もうひとつのネイビーは、ミズノのヨーロッパチームからのリクエストで海外の方から見た日本、ミズノを表現したフィッシャーマンになります。イメージは、京都・伊根の代名詞である舟屋。港の海の真上に家が建ち、その家から船が出て漁に出るみたいな風景。それがヨーロッパチームの思い描く日本の原風景だそうで、それがすごく新鮮でクールだと彼らが言っていたところから着想を得ています。MIZUNOも漢字にすると「美津濃」で水由来が多いので、伊根の漁師をテーマして、ネイビーは海、サイドのランバードロゴの上は漁師網のイメージとなっています。

国井 ウエーブ ムジン ティーエルは、過去と現在を上手く組み合わせて、シーズンごとのただの色替え、素材替えだけじゃなく、レイヤーから何から全部変えていてフレッシュさをキープ出来ている稀有なモデルだと思います。本当に毎シーズン違うモデルと思うように、ガラリと変わって出てくる。世代によって着目するポイントが違うので、幅広い世代に選ぶ理由ができるという。

国井 1モデルでここまでバリエーション見せていくって本当難しいと思うんですよ。それが今のミズノには上手くできてて。あと、言葉にはしづらいんですけど、何となく感覚的に時代に合っているっていうのもある。時代に合っているから好セールスにつながる。そのテクノロジーだけじゃないセンス的なものが齊藤くんにはあって、ミズノの技術力が上手く合わさっているという。それがミズノ全体として好調をキープしている要因だと思います。

 

ウエーブプロフェシーは、
ミズノのアイデンティティが詰まった
唯一無二の存在
国井栄之

–––もうひとつがウエーブプロフェシー ベータですね
齊藤 はい。ウエーブプロフェシー ベータは、国井さんもおっしゃってくださったミズノの最大の強みである、ランニング競技者用の専門用具であるパフォーマンスモデルのウエーブプロフェシー 10をスポーツスタイルにアレンジしたモデルになります。ベースモデルは、アーティスト・空山 基さんとのウエーブプロフェシー ソラヤマ。

齊藤 アッパーにモノソック構造を採用したインラインモデルの新色です。ミズノが今またヨーロッパでも盛り上がってきているので、海外の方から見たミズノらしさ、ないしは日本の面白さをプロダクトで表現しているつもりです。靴を買い替えなきゃいけなくなる一番の要因は、ミッドソールのEVA(スポンジ)やウレタンフォームがへたり込み劣化すること。

齊藤 ミズノが独自に開発したウエーブプロフェシーのソールは、空洞のあるインフィニティ(∞)構造のプラスチックプレートを採用することで、へたる原因が極力小さくなっているんです。またミズノ・ウエーブを進化させたインフィニティ・ウエーブを搭載したソールは安定感もあり独特のクッション感を実現しています。ウエーブプロフェシー 10は国井さんから「なんか理屈では言い表せない高揚感がこのモデルには詰まっている」と言っていただいた、究極の機能美を兼ね備えたミズノのアイコンプロダクトになります。

国井 ウエーブプロフェシーに関して僕が思うのは、ミズノは靴っていうよりは運動器具屋さんっていうイメージなんです。パラリンピック用に開発されたスポーツ用義足の板バネ(カタナシグマ)なんて本当にすごいじゃないですか。これまでなかった新たな発想の下で生まれたカーボン製板バネと斬新なデザインが衝撃的で。ミズノの技術力って革新的なものを追求する精神だと思うんです。それがミズノのアイデンティティ。そのアイデンティティが詰まったウエーブプロフェシーは、まさに機能美も含め唯一無二の存在ですよね。

MIZUNO×IMASEN “KATANAΣ”
by HAJIME SORAYAMA

–––あらためてミタスニーカーズにおけるミズノスポーツスタイルとは?
国井 売れるモデルに偏りがないめずらしいブランドなんですよね。これはすごい売れたけど、こっち残っちゃった、ていうのがほどんどのブランドであるのに。トータルのバランスいいブランドであり、安定している存在ですね。

–––野球で例えたら?
国井 もちろんスタメンなんですけど、内野手の9番バッターって感じですかね。絶対落とせない試合での戦略的で変則的な打順の組み方で。野球を知っている人ほど、9番って本当に重要なポジションじゃないですか。でも、今の現状である意味、二刀流はできちゃってるんですよね。ウエーブ ムジンのようなレトロなモデルも売れてるし、ウエーブプロフェシーのようなハイテクなものも売れてる。そしたらピッチャーで9番バッターの二刀流ですね。今後次第では、もしかしたらフルで4番を打つかもしれないし、競技変わったら、エースストライカーになるかもしれないし。でもそういうポテンシャルを秘めているブランドがミズノだと思いますね。

–––今後の展開を教えてください
国井 齊藤くんと共に進めさせて貰っているプロジェクトが来秋に向けて進行中です。その前の来春モデルもミズノの新たな可能性がまた広がった感じで手応えがあります。今後さらにミズノの新たなポテンシャルを感じられるプロダクトをローンチしていけるかと思うので期待していてください。

 

Mizuno Sports Style
2022 Fall / Winter
WAVE MUJIN TL & WAVE PROPHECY β

WAVE MUJIN TL GTX

WAVE MUJIN TL GTX
Charcoal gray / Light gray / Beige
¥20,900

WAVE MUJIN TL
Navy / Beige
¥19,250

WAVE PROPHECY β

WAVE PROPHECY β
Off white / Beige
¥27,500

WAVE PROPHECY β
Gray / Off white
¥27,500

取材協力:
ミズノ株式会社
ミタスニーカーズ

INFORMATION

mita sneakers
03-3832-8346
www.mita-sneakers.co.jp

ミズノお客様相談センター
0120-320-799
www.mizuno.jp/mizuno1906/

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