Photo : Yoshito Yanagida
Text : Masahiro Minai(Runners Pulse)
Edit : Shin Kawase

NEVER STOP EXPLORING
HEAD QUARTER OF THE NORTH FACE

アウトドアシーンの巨人、ザ・ノース・フェイスが2018年から本格的にフットウェアに注力する。その情報を聞きつけた編集部は、この目で確かめるために本誌兄弟雑誌・ランナーズパルス編集長の南井正弘氏と一緒にザ・ノース・フェイス本社があるアメリカ・カリフォルニア州へと飛んだ。

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ザ・ノース・フェイスのヘッドクォーターは、カリフォルニア州のベイエリア、オークランドの西に隣接するアラメダに位置している。このエコロジーにも配慮したオフィスはスタイリッシュかつ機能的で、ザ・ノース・フェイスの開発チームはこの恵まれたワークスペースで数々のプロダクトを生み出している。

社内にもスローガン、“NEVER STOP EXPLORING”(決して冒険を止めない!)が掲げてある。

ザ・ノース・フェイスは1966年にダグラス・トンプキンスによってカリフォルニア州ノースビーチの小さな店から始まり、1968年に同州バークレーで創業されたアウトドアイクイプメントカンパニー。当初は小さな規模のビジネスであったが、“NEVER STOP EXPLORING”(決して冒険を止めない!)という同社の有名なコピーが象徴するように、いつの時代も進化を止めない製品開発アプローチから誕生する機能性に優れたプロダクトを次々と発表することで、世界中のアウトドアマンズを魅了し、世界でもトップクラスのアウトドアブランドへと成長。
2000年からはティンバーランドやヴァンズ、リー、ラングラーといったブランドを有するVFコーポレーションのメンバーとなっている。それに伴いヘッドクォーターは、創業の地であるバークレーではなく、同じカリフォルニア州アラメダ郡のアラメダという街に位置している。オフィスはハーバーベイ・パークウェイという海に面した道路沿いに立地する近代的なビルにあり、同グループのジャンスポーツ(バッグ類)、スマートウール(ウール衣類)といったブランドと同じ敷地だ。

駐車場には電気自動車用の充電スタンドがあり、屋根の一部は太陽光発電のソーラーパネルになっていた。

カリフォルニア州は地球環境保護に対する意識がとても高く、全米で最も電気自動車普及に積極的な州のひとつとして知られている。今から7年後の2025年までに150万台のZEV(Zero Emission Vehicle 排出ガスを一切出さない電気自動車や燃料電池自動車のこと)普及を目標に掲げているほどだ。アラメダのザ・ノース・フェイスのオフィスを訪れると、そのことを実感することができる。オフィスの駐車場には電気自動車専用区画がいくつも設けられていたり、電気自動車用の充電スタンドが何機も備えられていたからだ。そして駐車場の一部には屋根が設置されているのだが、この屋根が太陽光発電のソーラーパネルになっているという徹底ぶり。随所にエコロジーに対する本気度というのを見せつけられた。

たくさんの植物が栽培されている中庭。晴天の日にはここでミーティングも行われる。

一方で、中庭には沢山の種類の植物が栽培されていて、無機質になりがちな近代的なデザインのオフィスと見事な調和を図っているのはさすが。訪問した日はあいにくの曇天だったが、晴れて気温の高い日には社員はウッドデッキの屋外テラスでリラックスしたり、そのままミーティングや仕事をしたりもするという。カリフォルニアの太陽の下なら、ミーティングはポジティブな意見が交わされそうだし、PC作業なども屋内よりも効率が上がりそうで羨ましい。

オフィス内部に案内されると、廊下には“50 YEARS OF INNOVATION(革新とともにあった50年)”の文字とともに、創業から現在まで、同社が開発した歴史的なプロダクトの現物や写真がディスプレイされている。そのなかにはシェラパーカやヌプシジャケットのように日本でもポピュラーになったものも少なくなかった。また最近のアメリカのオフィス、特にスポーツ関連のブランドのオフィスにはスポーツジムを備えていることは珍しくないが、ザ・ノース・フェイスもその例に漏れない。トレッドミルやエアロバイク、ウェイトマシンetc.一通りの機材が揃っている。ただしアウトドアブランドのオフィス内ジムらしいと思ったのは、懸垂用バーの隣にボルダリング用のトレーニングボードが備えられている点。これまで世界中のスポーツブランドのオフィスジムをいくつも訪問したが、このタイプの器具が備えられていたのは初めてであった。

オフィス内にスポーツジムがあり、ボルダリング用のトレーニングボードも設置されている。

 

NEVER STOP EXPLORING
HEAD QUARTER OF THE NORTH FACE
Key person of performance & lifestyle footwear

2017年、ひとつのクッショニングテクノロジーがスポーツシューズ業界に大きなインパクトを与えた。それがザ・ノース・フェイスのXTRAFOAM。この柔軟なフォーム素材を使用し、高い衝撃吸収性を誇る素材を用いたテクノロジーは、ランニングシューズのウルトラベロシティを始めとしたモデルに採用され、数多くのアスリートから高い評価を得ることに成功。そして今春には新たにより反発性能に優れたFASTFOAMも登場する。今回ザ・ノース・フェイスのヘッドクォーターにて、フットウェアの統括責任者であるシェーン・ダウニーを始めとしたキーマンに、その開発秘話を聞いた。

シェーン・ダウニー
シニアプロダクトディレクター。ニューバランス、ブルックスを経て2017年5月より現職。パフォーマンス、ライフスタイルフットウェアの両方で数々の実績を重ねてきた業界のキーパーソン。

シェーン・ダウニーはニューバランスで様々な役職を経験し、ブルックスにおいてヘリテージコレクションの責任者として成功に導いた、スポーツシューズ業界のキーパーソン。ザ・ノース・フェイスのフットウェアの今後の戦略を訪ねると、「我々がXTRAFOAMとFASTFOAMというクッショニングテクノロジーを開発したのは、ランナーにスポーツシューズ業界で一番凄い足裏の経験をしてもらうためです。二つのクッショニングテクノロジーは、それぞれクッション性と反発性という特徴を追求しました。自動車に例えるとXTRAFOAMは乗り心地のよいラグジュアリーカー、FASTFOAMは反応のクイックなスポーツカーといったところでしょうか。
ザ・ノース・フェイスはトレイルシーンと足の構造を熟知しており、基本的にはトレイルシーンを想定した機能開発を行っています。オンロードとは違った特性がありますので、その部分を反映させたテクノロジーによって、アスリートをアウトドアフィールドでサポートできると思います。先程もいいましたが、長期的な目標でランナーにどのブランドのシューズよりも凄い足裏の体験をしてもらうために、今後も軽量性や屈曲性を追求した様々なテクノロジーを発表する予定となっていますが、その第一段階がXTRAFOAMとFASTFOAMというテクノロジーのリリースなのです」。

一番凄い足裏の経験をしてもらうため開発されたXTRAFOAM。

「自分は日曜以外の6日は走るかウェイトトレーニングをしていますが、その時にXTRAFOAMを内蔵したエンデュラストレイルを履いており、その抜群のクッション性とアッパーのフィット感を気に入っています。最近ではパフォーマンスシューズがスタイリッシュなデザインになって、反対にライフスタイルシューズの機能性が以前よりも向上しているように、それぞれがお互いに影響し合っています。両方のユーザーに本当の意味で気に入ってもらえるシューズを開発することが、自分がこの会社に入社した大きな理由です」という。今後のザ・ノース・フェイスのフットウェアの展開が楽しみだ。

 

THE NORTH FACE ‘s Cushioning Technology

では、XTRAFOAMとFASTFOAMはどのような構造を採用することで、ランナーに今までにないような足裏の経験をさせてくれるのか? これに関しては、シニアプロダクトマネージャーのスティーブ・アヴェとシニアデザイナーのチャーリー・アルファロが説明してくれた。

スティーブ・アヴェ
シニアプロダクトマネージャー。ナイキ、アンダーアーマー、ブルックスといったブランドで様々な職種を経験後ザ・ノース・フェイスに入社。これまでの経歴を活かし、魅力的な製品開発を行っている。

「XTRAFOAMは、アウトドアフィールドを知り尽くしたザ・ノース・フェイスだからこそ開発することができたクッショニングテクノロジーで、安定性を損なうことなく、究極の衝撃吸収性能を追求することを目指しました。この機能は、二種類の硬度の異なるEVA素材を組み合わせることで構成されています。内側に特別に配合した柔らかいEVAコアを、その周囲をそれよりも硬度の高いEVAフレームで包み込む構造の採用により、抜群の衝撃吸収性能だけでなく、安定性を確保することに成功しました。このエンデュラストレイルでいえばオレンジの部分が柔らかいコアで、イエローの部分がそれよりも硬度のあるフレームになりますね。XTRAFOAMは、体重のあるランナーがトレイルのような不整地で長い距離を走った際でも、クッショニングとスタビリティを最後までしっかりとキープしてくれます。」

XTRAFOAMもFASTFOAMも素材の開発ではなくシステムの革新だったという。

チャーリー・アルファロ
シニアデザイナー。ナイキでキッズやバスケットボールシューズのデザイナーとして活躍。現在は自らデザインを行うほか、シニアデザイナーとしてデザインチームをまとめている。

「FASTFOAMも基本的な構造は同じですが、コア(グリーン)の部分のEVAを衝撃吸収よりも反発性を重視した配合にしたことで、よりクイックな動きにマッチすることに成功しました。XTRAFOAMとFASTFOAMも単一の素材では我々が目指した衝撃吸収性能や反発性能は得られず、二つの素材の配合を組み合わせることがとても難しかったですね。その点からも、どちらのテクノロジーも単なる素材の開発ではなくシステムの革新でした」とのこと。こうして完成した二つのテクノロジーは、トップアスリートからも高い評価を得ている。

 

The Functional Advantage of THE NORTH FACE
by Dylan Bowman

ブランドの創業以来、他ブランドとは異なったアプローチで機能的な優位性を証明してきたザ・ノース・フェイス。ここでは昨年トレイルランニングレースの最高峰UTMBにて、7位という好成績を収めたディラン・バウマンと、サンフランシスコのダウンタウンに位置するザ・ノース・フェイスのフラッグシップストアのスタッフに、その機能性の高さを語ってもらうことにする。

契約アスリートであり、昨年のUTMBにて7位に入ったディラン・バウマン。

UTMFやUTMBを始めとした、数々のトレイルレースで優秀な成績を収めてきたディラン・バウマン。彼は日々のトレーニング、レースでザ・ノース・フェイスを使用しており、アスリートの視点でブランドの優位性を語ってくれた。
「まず自分がザ・ノース・フェイスというブランドを好きなのは、アウトドアシーンにおいて創業以来、高品質の機能性に優れたプロダクトを開発してきた伝統を受け継いでいる点です。機能面に関していうと、フットウェアではアウトドアシーンにおける足の保護性能が高い点、アパレルでは悪天候を含むあらゆる気候条件に対応する豊富なラインアップが揃えられている点ですね。最初にXTRAFOAMを装備したシューズを履いたのはエンデュラストレイルでしたが、このシューズに足を入れたときに感じたのは“履き心地がよくてクッション性もいいから、長い距離を走っても脚が疲れにくそうだなぁ”ということですね。自分はトレイルランナーとしては背も高く、体重もあるほうです。自分のようなカラダが大きいランナーにとって、XTRAFOAMの抜群の衝撃吸収性と安定性は本当にありがたい。長距離のレースではこのシューズは大きな味方になってくれそうな気がしました。」

「FASTFOAMのほうはXTRAFOAMよりも軽くて、衝撃吸収性よりもスプリングが弾むような反発性を追求していますね。さきほども言いましたが、自分はトレイルランナーとしては大柄なので、XTRAFOAMの衝撃吸収性と安定性のコンビネーションをチョイスしますが、体重の軽いランナーはFASTFOAMのライトウェイトと反発性の組み合わせのほうをセレクトするかもしれませんね。実際に去年のUTMBではエンデュラストレイルを履いて走り、途中で履き替えることもなく、1足のシューズが最後までクッションニング性能が低下することなく、しっかりと足を守ってくれました」とコメント。

ディラン・バウマン
1986年3月24日生。高校、大学時代にラクロスで優秀な成績を収めた後にトレイルランニングを始め、2016年のUTMF優勝、2017年のUTMBでは7位に入賞するなど、アメリカを代表するランナーに成長。ザ・ノース・フェイスとアドバイザリー契約を結び、製品開発にも様々な助言を与えている。

このようにディラン・バウマンは、ザ・ノース・フェイスのフットウェアに全幅の信頼を置いており、彼が世界トップレベルのトレイルレースで同社のシューズを使用し、さらなる改良のために、その体験をザ・ノース・フェイスへとフィードバックし続けることで、より機能性に優れたランニングシューズが生まれることだろう。今からその誕生が楽しみである。

 

Attractiveness of THE NORTH FACE
by THE NORTH FACE Staff

サンフランシスコのダウンタウン中心部、ユニオンスクエアからすぐそばの繁華街に位置するザ・ノース・フェイスのフラッグシップストア。このショップではパフォーマンスシーン向けのアイテムを中心にアパレル、アクセサリーからフットウェアまで豊富なラインアップを取り揃えており、ひっきりなしに買い物客が訪れている。ちなみに我々が訪問した際には、ザ・ノース・フェイスが今年の冬季五輪のUS SKI & SNOWBOARD TEAMのオフィシャルサプライヤーを担当しており、そのオフィシャルグッズをコーナー展開していた。そんな大規模ショップにおいて日々ユーザーと接し、そのリアクションをダイレクトに感じることができるショップスタッフにもこのブランドの魅力、そしてフットウェアコレクション、XTRAFOAMの素晴らしさを聞いてみた。

まずストアマネージャーのメリッサ・ダンは、「私自身XTRAFOAMを搭載したエンデュラストレイルを履いていて、そのシューズでゴールデンナショナルリクリエーションエリアにて行われた、ザ・ノースフェイス・エンデュランスチャレンジという13.1マイル(約21km)のトレイルレースに参加しました。アップダウンのかなりあるコースだったのですが、このシューズはアッパーのフィット感もよく、XTRAFOAMのクッション性と安定性のおかげで最後まで足が痛くなることもなくゴールすることができました。自分自身がこのシューズの機能性の高さを体感したこともあって、自信を持ってお客さんに薦めることができますね」と語る。

左 : MELISSA DUNN (ストアマネージャー)
右 : BRIAN MARTINO (OPSスーパーバイザー)

また、同じくこのショップで働くOPSスーパーバイザーのブライアン・マーティノは「ザ・ノース・フェイスのフットウェアコレクションは、他のブランドとの違いが一目でわかるデザインを採用している点が個人的には気にいっています。あと通常のシューズではハイキングやトレイルレースの前に何回か履いて足慣らしをしたほうがいいのですが、XTRAFOAM搭載シューズはその必要がほとんどなく、箱から出した状態でもすぐに、その優れたクッション性と安定性を提供してくれるところが素晴らしいと思います。FASTFOAMのほうはまだリリースされていないのでトライできていませんが、自分のような体重の軽いランナーにマッチしたテクノロジーだと聞いていますので、今から発売が楽しみです」とコメント。
さらにセールスアソシエイトのマイク・ジェイコブスは「このブランドのシューズは耐久性があるし、とにかく品質が高い。自分がXTRAFOAM内蔵シューズを履いてまず感じたのは、とても柔らかくて快適だということ。そのことをセールストークにしてお客さんにも薦めると、試履きしてくれて“本当にあなたが言う通りだね!”といって買ってくれたこともありました」とコメントするように、フラッグシップストアで働くスタッフたちもXTRAFOAM搭載シューズを始めとしたザ・ノース・フェイスのフットウェアコレクションの機能性に魅了されていた。

おわりに
ザ・ノース・フェイスが、これまで以上にフットウェアに力を入れる。今回の本国ヘッドクォーター取材、そしてキーパーソンのインタビューを通して浮かび上がってきた事実がそれだ。THE NORTH FACEが開発した素材とテクノロジーであるXTRAFOAMやFASTFOAMが搭載されたモデルは、今後、続々とラインナップされていくだろう。アウトドアブランドの巨人、ザ・ノース・フェイスの次なるモデルに、今から期待せずにはいられない。

INFORMATION
ゴールドウイン カスタマーセンター
0120-307-560
www.goldwin.co.jp

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