
Photo : Masataka Nakada (CLOCK)
Interviewer & Edit & Text : Shin Kawase
Masterpiece born from Tradition and Innovation
Mizuno Sportstyle “WAVE PROPHECY RING MOC
Setsumasa Kobayashi”
本誌最新号の表紙を飾った
ミズノスポーツスタイルの
話題のモデルがついに登場
ウエーブプロフェシーモックの最新作、ウエーブプロフェシーリングモックが発売される。前作のウエーブプロフェシーモックは、2023年9月29日に本誌とウェブスペシャルで発表するやいなや、編集部にも問い合わせが殺到し、大反響を巻き起こした。その後、実際に発売されると一瞬にしてソールドアウト。三度再販されるも、未だ多くのスニーカーファンが買えずにいる幻のモデル。最新作の発売を前に、生みの親である2人を再び取材した。

Interviews with two key Man
Setsumasa Kobayashi
(. . . . .RESEARCH) &
Takeshi Saito
(Mizuno Sportstyle)


小林節正 / . . . . .リサーチ代表
高校卒業後、靴デザイナーだった父親の影響を受け、イタリアで靴職人として修行を積む。帰国後はフリーランスとして多くの東コレブランドの靴製作に関わった後、1990年にはミズノからのオファーで雑誌『Tarzan』とのコラボレーションシューズを製作し、グッドデザイン賞を受賞。1994年スタートのファッションブランド「ジェネラルリサーチ」を経て、2006年からは「マウンテンリサーチ」を軸に据える「. . . . .リサーチ」を主催。グッドデザイン受賞後もミズノとの取り組みは継続し、2007年から「ミズノ インフィニティモック」プロジェクトを始動。2017年にミズノとの契約は終了したが、2023年のウエーブプロフェシーモックを機に本シリーズの監修を務めている。

齊藤健史 / ミズノ株式会社 グローバルフットウエアプロダクト本部 スポーツスタイル企画デザイン課 課長
大学卒業後に一般企業に入社。その後、その企業を退社してシューズの専門学校で2年間靴作りを学んだ後、外資系スポーツブランドに入社し10年在籍。その経験を生かして、2017年にミズノに入社。ランニングシューズを担当しながら「今がその時。」というコンセプトのニューレーベル“rhrn”(RIGHT HERE, RIGHT NOW.:アールエイチアールエヌ)を立ち上げる。“rhrn”はプロダクトだけでなく、プロモーションのビジュアルからムービーまでのすべてを手掛ける。ドーバー ストリート マーケット ギンザで販売すると即日完売し、スニーカーマーケットに大きな衝撃を与えた。現在は、ミズノスポーツスタイルのすべての企画とデザインを統括するマネージャー。
今のウエーブプロフェシーモックの状況は、
齊藤くんの熱意と粘り強さに尽きると思う
小林節正
–––2023年に発売後、ウエーブプロフェシーモックはなかなか買うことができない幻のモデルと言われています。この状況について、お2人のお気持ちを教えてください
齊藤 この状況は全く想定していませんでした。やはり自分のやっていることは、これまでのミズノの既定路線にはないことでしたし。企画立案からデザイン、そしてマーケティングにも関わらせていただいていて、プレッシャーも正直すごく感じていました。ただ、結果として反響が大きかったのはとても嬉しかったですね。もちろん、私一人で実現できることではなく、そこには小林さんのご理解とご協力があってこそで、そして今回も、こうして対談ができることになったことも感慨深いですね。
小林 同じく僕も想定外で、反響の大きさに驚き戸惑いながらも、今日まで想像以上にことがスムーズに進んだなと感じています。ミズノさんとは1980年代からのお付き合いなんですが、それまでスポーツ用品メーカーとして歩んできたブランドが、齊藤くんによってファッションという領域にも踏み出せる可能性が生まれ、今の状況にうまく結びついたんだと思うんですよ。結果が出て言うのは簡単ですが、おそらく当時は齊藤くんの企画に対しての反発もあっただろうし、我々の初代リングモックの時は、ミズノさんとしてはファッションマーチャンダイズに対して半信半疑だったかもしれない。最初に彼から連絡をもらった時、このシリーズに懸ける齊藤くんの覚悟がすごく伝わっていました。そんな中で生まれた今のウエーブプロフェシーモックの状況というのは、齊藤くんの熱意と粘り強さに尽きると思います。今に至るまで、たった数年。ミズノの数字を見ている方が一番驚いているんじゃないですかね(笑)。

SHOES MASTER Magazine Vol.40(2023年9月29日発売)&
SHOES MASTER Web SPECIAL(2023年9月29日公開)
Mizuno Sportstyle Evolving WAVE PROPHECY
New Model “WAVE PROPHECY MOC”
https://www.shoesmaster.jp/special/mizuno-sportstyle-evolving-wave-prophecy-wave-prophecy-moc

すべての始まりは約2年半前のここからだった。
写真の齊藤氏は笑顔だが、取材の1時間前にスタジオ入りし、
珍しく極度の緊張状態にあった齊藤氏。
長い付き合いになるが、こんな齊藤氏を見たのは初めてだった。
この一足に掛ける並々ならぬ想いが、我々にもひしひしと伝わってきた。
そして、この一足がスニーカーマーケットの潮流を変え、
大きなうねりを起こすことになるとは誰も予想していなかった。
–––ベースモデルとなるインフィニティモックシリーズは、10年以上前にリリースされました。あらためて、インフィニティリングモックについて、お2人の思い出、想いを聞かせてください
齊藤 ミズノへの入社が決まった時に購入したのが、まさにインフィニティリングモックでした。中目黒のジェネラルストアへ、生まれたばかりの子供を連れて家族で行ったのを覚えています。当時は転職という人生の大きな転機にあり、公私共にプレッシャーと向き合っていた時期だったので、そういった意味でも非常に感慨深い一足なんです。小林さんのことは雑誌の特集などを通じて拝見していました。その卓越した洞察力とクリエイティビティで、私たちが生業としている靴の世界にこれほど鮮烈なプロダクトを送り出した凄さ。それはミズノにおける靴作りの原点と言っても過言ではないほど感銘を受けています。「いつか自分も」という思いを抱きながら、入社以来さまざまなカテゴリーに携わってきましたが、当時の足元はほぼ毎日、このインフィニティリングモックでしたね。

2017年、齊藤氏がミズノへ入社が決まった時に購入した
インフィニティリングモック(齊藤氏私物)。
このシリーズを手掛けた小林氏が一番気に入っているのも
このインフィニティリングモックだそうだ。

インフィニティモックは、
1980年代からお付き合いのあった
ミズノスタッフに相談したのが
すべての始まりなんです
小林節正
–––インフィニティリングモックについて、小林さんの思い出、想いを教えてください
小林 モカシンにランニングシューズのソールをくっつける。この企画の初期構想段階では、アメリカのオリジナルの袋モカシンやハンドメイドのアローモカシンなどいろいろ集めてきて、そこにランニングシューズのソールを剥がしてくっつけて、モックアップを作るような感覚で試行錯誤していました。事務所に置いて、スタッフの反応を見たりしながら。ただ、実際に形にするとなるとハードルが高くて。アローモカシンのスタッフに掛け合ったり、詳しい知人に相談したりもしたんですが、なかなか実現には至りませんでした。ならばと、1980年代からお付き合いのあったミズノスタッフに相談したのがすべての始まりなんです。
齊藤 当時の担当者に聞いたのですが、最初のお話は2007年頃だったそうですね。今からもう約20年も前。
–––それから実際にプロダクトにしていったということですね
小林 そうです。最初のオファーから形にするまで2、3年はかかりました。僕が提案したのは、アパレルのマーチャンダイジングとしての視点だったので、ミズノさんにとってもこれまでにないチャレンジングな企画で、実は頓挫しかけたこともあったんです。そこを色々な方の協力を得て、なんとか進められることになりました。プランニングで狙ったのはオールミズノとなるようなマーチャンダイズ。アッパーにはミズノの看板でもある野球グラブの革を採用し、ソールにはテクノロジーが集約された当時のランニングモデルを合わせて。

写真右が野球グラブの革を採用したモデルで
左がコードバン仕様
小林 他にもクラークスと同じスエードを使ったものや、コードバン仕様まで作りましたね。ただ、ミズノさんがスポーツメーカーとして守ってきた厳格な基準からすると、フィット感の面でまだ距離があったんです。そこをミズノさんの中で全くの別企画で開発が進んでいたインナーソールを組み合わせることで、日常生活において高水準でワークする、ミズノ基準のフィット感を実現できました。狙い通り、最新テクノロジーとプリミティブなモカシンが融合した、世界中どこを探してもないプロダクトが誕生しました。


インナーソールを組み合わせることで完成した
インフィニティモックシリーズのリングモック。
奥はブーツモック。
–––まさに人に歴史あり、靴に歴史ありですね
齊藤 このお話は、今伺っても胸が熱くなります。誕生の経緯は私も社内で聞いていたのですが、今回の企画にあたっては、小林さんにはおこがましくて易々と相談できませんでした。もちろん、小林さんの存在なしに安易に企画を立てることは絶対にしたくなかったので、まずはサンプルの反響などをご報告することから始め、段階を追ってコミュニケーションを取らせていただきました。そうして、小林さんの周囲でのインフィニティモックの反響なども伺えるようになり、ようやく私の想いをお伝えすることができました。
小林 彼は絶対に筋を通すし、とても律儀なんだよね。それは最初に会った時の「礼儀正しい熱意溢れる若者」の印象から全然変わっていません。

リングに関しては、
デザインと機能の両面で
細かなアジャストが必要でした
齊藤健史
–––最新作となるウエーブプロフェシーリングモックの特徴を教えてください
齊藤 特徴は大きく分けて3つあります。1つは、一目でそれとわかるアッパーのリングストラップです。リングモック特有の緩みやすさやレザーの伸びに対しても、ディテールの工夫によって十分なホールド力をキープしています。2つ目は甲のステッチです。前作のプロフェシーモックは2本でしたが、今回は3本に増やしました。
小林 本来はベロ(シュータン)を固定するためのステッチですが、デザインとしてかわいいので、あえて1本増やしたんです。

齊藤 そして3つ目が、かかとに配したマウンテンリサーチでおなじみのサークルAのロゴです。ミズノのロゴと並べて主張することは抑えたいという小林さんのご意向もありましたが、私としては、オリジネーターである小林さんへの敬意として、今回の取り組みの証をどうしても残したかったんです。

–––製作過程でこだわった所と一番大変だったことは?
齊藤 こだわったのは、プリミティブなリングモカシンをベースに、オリジナルの意匠を忠実に守りながら、現代のテクノロジーやデザインをいかに違和感なく馴染ませていくかという点です。象徴的なディテールである大きなリングに関しては、デザインと機能の両面で細かなアジャストが必要でした。参考にするべきオリジナルモデルがあったとはいえ、その調整にはスケジュールを目一杯使いました。最終的に23cmから24.5cm、そして25cm以上のサイズで、リング自体の大きさを変えた2つの型を用意しました。また、人によって異なる甲の高さにどう対応するか。リングを中央に配置するのか、あるいは少しサイドにずらすのかなど、快適に履いていただくための機能性を最後まで追求しました。また、あらゆる足にジャストフィットするように、リングストラップは、面ファスナーになっていて自分好みに調整が可能にしてあります。

–––完成した新作ついて、率直な感想を聞かせてください
小林 やりたいことが非常にバランスよくまとまっていると思います。例えば、甲高な僕にとってはスエードの特性がうまく活きていて、驚くほど早く足に馴染んでフィットしてくれました。リング部分にストラップがあるおかげで、歩行時のズレも気になりませんしね。毛足の短いスエードの質感も上品で気に入っています。初代と比較しても、技術的な進歩と相まって、完成度はかなり上がっているんじゃないでしょうか。

齊藤 製作過程では何度も模索しましたが、一貫して持ち続けた目的は「オリジナルを損なわないこと」でした。小林さんからもアドバイスをいただいた通り、単に過去と同じものを作るのではなく、現代の要素をどこまで盛り込んでいくか。それを形にするのが私の役割でしたので、今振り返ると、なんとか自負できるものに仕上げられたかなと感じています。
小林 はい、ちゃんとアップデートできています(笑)。

ミズノのプロダクトの魅力は、
作っている「人」に尽きる
小林節正
–––小林さんが考える他ブランドにはない「ミズノのプロダクトの魅力」とは何でしょうか?
それはプロダクトそのものというより、それを作っている「人」に尽きますね。現場で接するミズノの人たちは、とにかく驚くほど真面目なんです。初代リングモックの開発時も、デザイナーから技術担当まで、納得がいくまで徹底的にやり合いました。彼らは、いわゆるファッション業界の先入観や固定観念に縛られていない分、ものづくりに対してどこまでも実直なんです。それは、ミズノ独自の文化と言ってもいいかも知れません。流行に流されるような軽さがなく、全員が職人気質。だからこそ、こちらが少しでも妥協しようものなら、彼らがそれを決して許してくれない(笑)。その熱量に向き合うのは相当なエネルギーが必要ですが、その諦めない姿勢があるからこそ、他社には真似できないクオリティに到達できるんだと思います。そんな真面目すぎるほどの社風こそが人を育て、結果としてミズノのプロダクトの面白さ、強みになっていると感じています。

2人が考える「いい靴」の条件とは?
時代を超えて愛され続けるもの
齊藤健史
見た瞬間に心躍る靴であること
小林節正
–––前回もお聞きしましたが、お2人が考える「いい靴」の条件とは?
齊藤 やはり行き着くところは、時代を超えて愛され続けるものではないでしょうか。以前、今回のプロジェクトのルーツとなった初代インフィニティモックの企画書を見せていただいたのですが、その中にプリミティブ(原始的)という言葉がありました。靴の原型のひとつであるモカシンは、もともとは生活から生まれた非常にシンプルなものです。そうした靴の原点にある思想と、現代の最先端テクノロジーを掛け合わせる。そのアプローチこそが、どの時代においても色褪せない、本当に良い靴の条件なのだと思います。テクノロジーは常に進化しますが、原点と掛け合わせることで、その時代にふさわしい新しさや鮮度を表現し続けることができる。この捉え方こそが、現代におけるものづくりの本質であり、アウトプットする側としても追求し続けなければならない責任があると考えています。

–––小林さんが考える「いい靴」の条件とは?
小林 僕は、見た瞬間に心躍る靴であることだと思います。心が動かなければ、まず手に取ることすらありませんから。ワクワクやドキドキがないものは、選ばれることも、ましてや一生履き続けられることもないでしょう。その本質は、今も昔も変わりません。前作のリリースから10年以上経った今でも待っていてくださるファンがいるのは、単なる道具を超えて、ひとつのオブジェクトとして心に刺さるものがあったから。それこそが、良い靴だったと思っていただけている証拠ではないでしょうか。
–––最新作をどんな方に履いて欲しいですか?
齊藤 前作のインフィニティモックを知っている方には、ぜひ履いていただきたいと思っています。当時のスニーカーカルチャーを含めた時代背景を知っている方に認めていただけることは、やはり作り手として嬉しいです。また、プリミティブな意匠は万人に刺さる力を持っていると信じています。「靴の原点へのアプローチ」という、普段のミズノのイメージからは想像もつかないような面白さを楽しんでくれる方々に、広く届けていきたいですね。
小林 まず、見た瞬間にワクワク、ドキドキしてくれたなら、その方はもうこちらの術中にはまったようなものです(笑)。あとは、もちろん前作のインフィニティモックを持っている方にも。今作はシリーズの最新版であり、長い年月を経て辿り着いた進化の軌跡を、足裏で確実に感じられるようになっています。ぜひ一度、足を入れてみていただきたいですね。

–––最新作はどこで購入できますか?
齊藤 マウンテンリサーチさんのオンラインで先行発売させていただくのが6月5日(金)になると思います。6月19日(金)にミズノ直営店、ミズノオンラインストア、卸先の全国のスニーカーショップで販売される予定になっています。僕がミズノに入社することが決まった時にマウンテンリサーチで購入したモックシリーズの最新作を今回、マウンテンリサーチさんで販売されることが個人的に感慨深いです。
小林 前作はミズノのチャンネルでの扱いがなかったから、ミズノ直営店で販売されることになるとは、ミズノの進化を感じます。

Mizuno Sportstyle
WAVE PROPHECY RING MOC Setsumasa Kobayashi
¥35,200
–––最後に読者、スニーカーファンにメッセージをお願いします
齊藤 ブランドで選ぶことを否定はしませんが、本当に自分が履きたいものだけをチョイスする。今の市場には、自分のスタイルに合わせて選べるだけの膨大な選択肢があります。その中から「これだ」と思える一足を探したり、考えたりすること自体が、スニーカーライフの醍醐味だと僕は思うんです。背景は知らなくても、パッと見て「イケてる」と感じる。ワクワクする、ゾワッとする。そんな理屈抜きに琴線に触れるものを手に入れる楽しみをぜひ大切にしてほしいです。
–––小林さんも一言お願いします
小林 欲しいものは頑張って手に入れてください、どんな手段を使ってでも(笑)。

取材協力:
SEtt Inc. / セット株式会社
ミズノ株式会社
INFORMATION
MOUNTAIN RESEARCH online
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セット株式会社
https://sett.co.jp/
ミズノお客様相談センター
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