Text : Masahiro Minai
Photo : Yoshito Yanagida
Edit : Shin kawase

グローバルで注目を集める
ホカ オネオネのポテンシャルを徹底解剖

今、ランニングシューズ業界で最も注目を集めているブランド、ホカ オネオネ。その開発拠点はアメリカ・カリフォルニア州のサンタバーバラにある。昨年、我々編集部は日本のメディアとして初の本社独占取材を敢行した。改めてその内容をダイジェスト版で紹介する。

このエントリーをはてなブックマークに追加

The origin of
HOKA ONE ONE

ホカ オネオネ誕生秘話

創業メンバーの一人であり、デッカーズ イノベーション副社長のジャン・リュック・ディアード氏に、いかにしてこのブランドを誕生させることになったかを取材した。

私とニコラ・マーモッドがホカ オネオネというブランドをスタートさせることになったひとつのキッカケが、他のスポーツカテゴリーと比べてランニング、特にトレイルランニングの道具の進化のスピードが遅いと感じていたことです。アドベンチャーレースや100マイルレースのような過酷な競技で、最後まで競技者を保護するシューズを完成させることができれば、健康のために数マイル走っている人たちにとっても有用なはずだと思っていました。そんな時にひらめいたのがきのストライドを車輪が回転するように、より流動性がある動きにするシューズがあれば、走りをより効率化することができ、どんなに長距離のレースでも従来よりもアスリーという理論です。こうして、着地からシューズがローリングして蹴り出す、という一連の動きを水が流れるように効率化するシューズの開発がスタートします。言い換えれば、少ない力で最大の効果を発揮するシューズですね。まず着手したのが、アウトソールの形状をかかとからつま先にかけてロッカー(ゆりかご)状にしたこと。これにより、着地から蹴り出しまでが伝統的なランニングシューズよりもスムーズで、自然と足が前に出るような感覚が提供できるようになりました。そして次に行ったのがシューズのロードロップ化、つまりかかととつま先の高低差を低くして、自然な走り心地を提供しようと思いました。従来のランニングシューズでは10mmから12mm程度の高低差があることが一般的でしたが、我々のシューズは4mmほどにしました。実際に履 くと、体重で後部が潰れて2mm程度の高低差になると思いますが。ロードロップのシューズは長距離を走るランナーの消耗をより効率的にサポートすることができるのです。そして柔軟かつ軽量なミッドソールには、上方に大きく巻き上げる構造を採用することで高い衝撃吸収性と安定性も確保しました。このことによりサスペンションと自動車のバケットシートの組み合わせのように、ガタガタ道でも足をシューズの正しい位置にキープできます。ホカオネオネのシューズは、クッション性に優れた分厚いミッドソールだけに注目が集まりがちですが、いくつものこだわりのスペックを結集しているのです。

ジャン・リュック・ディアード
デッカーズ イノベーション副社長。ホカ オネオネの創設者の一人であり、現在はデッカーズの全ブランドのイノベーションチームを率いて、先進かつ革新的なプロダクトの開発に邁進している。

HOKA ONE ONE
present and future

ホカ オネオネの生まれる場所と進化する未来へ

フランスのアネシーで誕生したホカ オネオネ。現在は世界屈指のフットウェア企画製造グループであるデッカーズに属し、カリフォルニア州サンタバーバラに開発拠点を置く。キーパーソン3名を取材した。

Wendy Yang
Deckers Performance
Lifestyle Brand President

ホカオネオネはひと言でいえば“異端”、すなわち独自路線を行くブランドだと思います。言い換えれば“勇敢“”大胆“”他と異なった”ブランドであり、プロダクト自体はもちろんのこと、マーケティングやプロモーションに関してもそうであるように活動しています。ランニングシューズマーケットには沢山のブランドやモデルが存在していますが、正直言うとブランドラインやカラー、デザインが 多少異なっているくらいで、実際に履き比べても履き心地や走行感は大きく変わらないと思います。しかしながら、ホカ オネオネのシューズは、足を入れて立っているだけで一般的なランニングシューズとの違いはすぐに理解できると思いますし、走ったらその差異をより一層体感できます。そして、幸運なことに私たちには創業者のジャン・リュック・ディアードを始めとした優秀なエンジニアが揃っています。

ウェンディ・ヤン
デッカーズ パフォーマンスライフスタイルブランド社長

Lee Cox
Sales & Marketing Vice President

ホカ オネオネというブランドはトップアスリートだけを対象にしているのではなく、すべてのレベルのランナーに愛されることを目指しています。今後のマーケティング活動の目標は、現在確固たる地位を築いている男性の中級以上のランナーにおけるシェアをキープしつつ、女性ランナーのシェアやビギナー層におけるシェアを拡大することです。

リー・コックス
ホカ オネオネ セールス&マーケティング副社長

Andrew Conley
Senior Product Director

ホカ オネオネと他のブランドの最も大きな違いは、クッション性と軽量性を両立している点。足の保護性も高くて、衝撃吸収性も優れているのに軽いというシューズを作ることは本当に大変で、他のクッション性の高いシューズは私たちのシューズほど軽くないです。今後も様々なランナーに対応すべく、新たなテクノロジーを採用し、クッション性を損なうことなく安定性を確保したスタビリティタイプや、スピードを求めるランナーに向けたコレクションもこれまで以上に充実させていく予定です。

アンドリュー・コンリー
ホカ オネオネ シニアプロダクトディレクター

 

Superiority of
HOKA ONE ONE

ホカ オネオネの魅力

特にアメリカのランナーに愛されているホカ オネオネ。その理由と魅力を主要取扱ショップであるビレッジランナーと開発拠点からも近いサンタバーバラ ランニングクラブで聞いた。

village runner
Interview

ホカ オネオネは現在私たちのショップにおけるブランド別売り上げで、ブルックス、サッカニー、アシックスに次いで4位です。他ブランドが売り上げを落とすなか、ホカ オネオネは新しいタイプのシューズを試したいというランナーから注目を集めていて、昨年対比で200%~250%といったセールスを記録しています。(2016年取材時点)

ビレッジランナー
マンハッタンビーチとレドンドビーチに店舗を構えるランニングスペシャリティストアであるビレッジランナー。ランナー目線で厳選されたランニングギアが揃う。

SANTA BARBARA RUNNING CLUB
Interview

ホカ オネオネに対する印象は、クッション性とトレイルランニングですね。オンロードでもトレイルでも背中や腰、ヒザを痛めるランナーは少なくないのですが、「このブランドなら安心して走ることができる!」という声があがっています。実際にショップの売り上げも好調です。既存のブランドが横ばい状態なのに対し、ホカ オネオネは首位争いを繰り広げています。

サンタバーバラ ランニング クラブ
ホカ オネオネの開発拠点からも近いサンタバーバラにあるランニングショップ。注目のランニングブランドであるrabbitも扱うなど、スタイリッシュなギアが満載。

 

Ability of
HOKA ONE ONE

ホカ オネオネの実力

本誌ウェブスペシャルでも特集したフランス・シャモニーで行われる世界屈指のトレイルランニングイベントUTMB®。この大舞台でもホカ オネオネのシューズを着用したアスリートが大活躍。その実力をアピールすることに成功している。

UTMB®(Ultra Trail Du Mont Blanc) 2017
via HOKA ONE ONE UTMB 2017

フランスの高級スキーリゾート地として知られるシャモニーで行われた世界最高峰のトレイルランニングイベントUTMB®。15回目を迎えた本大会は、シャモニーを出発し、イタリア、スイスのアルプス山脈を一周してシャモニーに帰ってくる3か国18自治体を股にかけた全長171kmの長距離トレイルレース。2,156名が出場したこのレースは、チーム ホカ オネオネの選手が2位、3位に入り、出場ランナーの着用率は第2位。その実力を知らしめた結果となった。

IRONMAN World Championship Kailua-Kona, HAWAII 2017
via 2017 LAVA MAG RUNNING SHOE COUNT By David Jewell

UTMB®以外に、ハワイ・コナで開催されたアイアンマン世界選手権においては着用率ブランド第1位に輝いた。この大会は、世界各地で40以上もの予選会が開催され、選ばれた選手だけが出場できる特別なレース。その距離はスイム3.8km・バイク180km・ラン42.195kmのトータル約226km。制限時間は17時間と定められた、まさに鉄人レース。その選手の足元を最も多く支えたのがホカ オネオネだった。

 

The Reason for
HOKA ONE ONE

数々のランニングシューズで走ってきた金哲彦氏がHOKA ONE ONEを選んだ理由とは?

ランニング評論家として著名な金哲彦氏。現役時代から星の数ほどのランニングシューズを着用してきており、シューズに関する知識は業界トップクラスとしても知られている。今年ホカ オネオネとアドバイザリー契約を締結したニュースは大きな話題となったが、そんな金哲彦氏にこのブランドの魅力を語ってもらった。

Photo : Masataka Nakada (STUH)

ホカ オネオネを最初に知ったのは、妻が日医ジョガーズ(日本医師ジョガーズ連盟)という走ることを習慣としている医師・歯科医師の全国組織のメンバーなのですが、その団体に所属している鈴木先生が、全米すべての州のフルマラソンでサブ4(4時間以内で完走)のタイムで走るという偉業を達成されました。そして、この方が履いていて「このシューズが本当に走りやすいんですよ!」と絶賛していたのが、ホカ オネオネでした。最初に見たときは「ずいぶんとミッドソールが厚いランニングシューズだなぁ」と思いましたが、ウルトラマラソンも走る、しかも医師を職業とするランナーが気に入っているということは、科学的な根拠があるのは想像に難くありませんでした。そして、去年のことになりますが、第5回白山白川郷ウルトラマラソンに出走することになり、コースをチェックすると凄いアップダウンがありました。大学時代に山登りの箱根駅伝5区を走っていたように、上りは得意ですが、実は下りが苦手なんです。脚への負荷は平地や下りとは比較にならないですから。そのときに思い浮かんだのが、ホカ オネオネのランニングシューズでした。練習ではいろいろなブランドも試しましたが、ホカ オネオネの下りの走りやすさは群を抜いていて、さらに走ったあとの疲労感の少なさは特筆すべきレベル。翌日も疲れがほとんど残ってなかったです。本番は当然ホカ オネオネを選びましたが、比類なき衝撃吸収性、下りの走りやすさもあって、無事に100kmを完走。それ以降も毎月のようにフルマラソンを走っていますが、ホカ オネオネのシューズのおかげで、ほぼノーダメージで楽しく走ることができています。このブランドの魅力をもうひとつ付け加えると、これは機能的な部分ではないのですが、デザインが従来のランニングシューズよりもスタイリッシュなところ。これまではラン用のシューズと街履きシューズを分けていましたが、ホカ オネオネなら1足で両方のシーンに対応してくれます。私がホカ オネオネのシューズを薦めたいと思うタイプのランナーは、まず初心者やケガしたくないランナー。それと自分のように下りが苦手なランナーにピッタリで、下りの苦手意識が無くなるでしょうし、ウルトラマラソンを走るランナーにも最適なスペックのシューズを備えていると思います。

ちなみに自分が一番気に入っているホカ オネオネのシューズはクリフトン4。前述のようにランだけでなくカジュアルシーンまでシームレスに履くことができる点を気に入っていて、今日履いているブラックを含めて4色持っているくらい大好きなモデルです。

金哲彦(きん てつひこ)
1964年、福岡県出身。早稲田大時代、箱根駅伝の山上り5区で活躍、2度の区間賞と総合優勝を経験。卒業後はリクルートに入社しランニングクラブを創設。マラソン選手として東京国際マラソン3位などの実績がある。フルマラソンのベストタイムは2時間11分48秒。引退後はコーチに就任、数多くのトップアスリートを育成している。

Trajectory and future of
HOKA ONE ONE

ホカ オネオネの軌跡と未来

今やスニーカーフリークやファッション業界からも注目を集めるブランドに成長したホカ オネオネ。そのルーツは山にあり、アスリートがより速く、より安全に、より遠くへ走るためにデザインされたプレミアムランニングシューズブランド。快進撃を続けるホカ オネオネの軌跡と未来、各業界から支持を集める理由を本誌兄弟誌・ランナーズパルス編集長の南井正弘氏に解説してもらった。

スポーツ業界において、数々のエポックメイキングなプロダクトを発明してきたジャン・リュック・ディアード。彼がランナーの脚への負担を少なくし、効率よく山を駆け下りるためのツールを開発しようとしたことから、ホカ オネオネの歴史はスタートした。ブランドは2009年に創業したが、筆者がホカ オネオネのシューズを初めて見たのは2013年1月のこと。あるモノ系ファッション誌のスポーツギア特集の執筆を担当していて、知り合いのスタイリストが、注目のランニングシューズとして撮影のためリースしていたのである。当日は成人式の日で、都内では珍しい大雪となり、交通機関が大幅に乱れ、かなり遅れてスタジオに到着したが、目に飛び込んできたインパクト充分なデザインのランニングシューズのことは今も忘れることはできない。極厚ミッドソールを装備した、そのボリューミーなシルエットからは想像できない軽さも印象的だったし、2010年のハセツネCUP男子の部を制した選手が、ホカ オネオネを履いていたという情報を聞いて、その走行性能の高さを想像することはできたが、それでも「こんなデザインで本当に走ることが出来るのだろうか?」という気持ちが、心の片隅にはずっとあった。それから数ヶ月が経過して、遂にホカ オネオネのシューズを試す日がやってきた。このときトライしたのは、スティンソン、マファテ、ボンダイといった特にミッドソールの厚いタイプで、走り始めて、まず感じたのが、そのフワフワしたミッドソールの感触。ゆりかご状のソールユニットも相まって、着地から蹴り出しまでの一連の動作がスムーズ。これなら、いままでのシューズ以上に走ることが楽しくなるだろうことは、すぐに理解できた。
そして最初にこのブランドのシューズを見たときに思った「これだけミッドソールが厚いと安定性に問題はないのだろうか?特にコーナーを曲がったり、折り返し点を廻るときには、足首に負荷がかかって 捻挫しそう…」という点も、ソールユニットの接地面積がかなり広いので、カーブする際にもある程度減速すれば、フラつくこともなかった。それからというもの、筆者のランニングシューズコレクションに、青い箱のホカ オネオネが、急速に増えていったのである。そして、筆者のストックルームにホカ オネオネが増えるペースよりもさらなる速さでシェアを伸ばしたのが、アメリカを始めとした、海外のレースデイにおける同ブランドの着用率。シカゴマラソン、ホノルルハーフマラソン ハパルア、ゴールドコーストマラソン、エルサレムマラソンと、世界中のロードレースを走ったが、ホカ オネオネは、そのいずれもで、高い着用率をキープしていたのである。
さらにホカ オネオネの快進撃はパフォーマンスシーンに留まらない。ここ数シーズンでは、急速にファッションシーンでも注目されるようになっている。最近ではエンジニアドガーメンツとのコラボレーションも記憶に新しいが、それだけでなく、インラインプロダクトもファッショニスタやスニーカーフリークにピックアップされることも珍しくなくなった。このようにホカ オネオネは現在では知る人ぞ知るブランドというポジションから完全に脱却し、スポーツシューズ業界のメインストリームにしっかりと食い込むことに成功している。今後もより一層成長することは間違いないだろう。
南井正弘

南井正弘 (みない まさひろ)
「Runners Pulse」の編集長。スポーツシューズブランドのプロダクト担当として10年間勤務後ライターに転身。「フイナム」「Number Do」「モノマガジン」「日経トレンディネット」「SHOES MASTER」を始めとした雑誌やウェブ媒体を中心に執筆。楽しく走る!がモットーのファンランナーでベストタイムはフルマラソン3時間56分09秒、ハーフマラソン1時間38分55秒。

ホカ オネオネは、トップアスリートだけを対象にしているのではなく、すべてのレベルのランナーに愛されることを目指している。そのためユーチューブでと名付けられたプロモーションビデオを作成。マシュマロをイメージしたキャラクターがクリフトンを履いて疾走するこのビデオは、300万回近い再生を記録し、ホカ オネオネのクッション性の高さをコミカルな内容ながら効果的に伝えることに成功している。

Runners Pulse (ランナーズパルス)
「SHOES MASTER」の兄弟誌として2014年に創刊したランニングギア専門誌。「スタイリッシュに速く走りたい、すべてのランナーへ」をテーマに機能性とデザインが高次元で融合されたプロダクトだけをピックアップ。ホカ オネオネのポテンシャルにいち早く注目し、表紙はもちろん、日本メディア初の本社取材や日本未展開カラーのリカバリィサンダルを誌面で限定販売するなど、ホカ オネオネの日本市場確立における一旦を担っている。

INFORMATION
デッカーズジャパン
0120-710-844
www.hokaoneone.jp

pagetop