Photo : Osamu Matsuo
Text & Edit : Issey Enomoto

JAPANESE
BRANDS #01
ASICS

Part 2_Design and Development of ASICS SportStyle
アシックスのモノづくりの舞台裏。

近年、世界のスニーカーシーンを席巻するアシックス。人気の理由はどこにあるのか。そのモノづくりの背景とは。『アトモス』の小島奉文と、アシックス スポーツスタイルの担当者が語り合った。

このエントリーをはてなブックマークに追加

Design and Development of ASICS SportStyle

JAPANESE
BRANDS #01
ASICS

#01 小島奉文(アトモス)×上田隆之(アシックス スポーツスタイル デザイン部)

『アトモス』小島奉文(左)と、アシックスの上田隆之(右)。上田はアシックス スポーツスタイルのデザインを統括。2003年に入社し、パフォーマンスランニングの部署などを経て、2018年よりスポーツスタイルを担当。

自分たちが良いと思うものを、
愚直に追い求めてきただけ。

小島 スニーカーシーンにおけるアシックスの存在感が急速に高まりつつあり、『アトモス』でも売上が伸び続けています。とくに、いわゆるY2Kスタイルのテック系ランニングシューズの人気の高さはすさまじいものがあります。「ゲルカヤノ 14」とか、「GT-2160」とか。

上田 ありがとうございます。私たちとしては、そこに狙いを定めていたかというと、そういうわけではなくて。自分たちが良いと思うものを、愚直に追い求めてきただけ。それを世の中が求め始めた、という感じかもしれませんね。

上田のチームが世に送り出してきたアシックス スポーツスタイルのシューズたち。左から、「ゲルカヤノ 14」、「ゲルニンバス 9」、「ゲルテレイン」。

小島 やはりキコ・コスタディノフとのコラボレーションの影響は大きいですか?

上田 間違いありません。キコには、アシックスのテクノロジーへの深い理解とリスペクトがある。それはスポーツブランドであるアシックスにとって重要な意味を持ちます。

小島 モデルでいえば、AWAKE NYのアンジェロ・バクがデザインを手掛けた「GEL-NYC」も人気が高い。ディープなスニーカーフリークからも支持されています。

上田 「GEL-NYC」はスニーカー色が強く、ファッション文脈のキコとはテイストが異なります。その2軸があることが重要で、今後もうまくアップデートしながらやっていきたいと考えています。

小島 Y2Kスタイルの流行がしばらく続いていますが、次はどんなトレンドが来ると予測していますか?

上田 難しい質問ですね(笑)。かつてはグローバル全体を巻き込む大きなトレンドがありましたが、いまは細分化している印象です。誰がなんと言おうと自分はこれが好き、といったパーソナリティを大切にする人が、以前よりも増えている気がします。

小島 同感です。好みが人によって分かれる傾向がどんどん強まっていて、特定のブランドやモデルに人気が集中することはなくなりつつあります。

上田 流れとしては、よりレトロクラシックへ回帰する方向と、よりフューチャリスティックなものを求める方向のふたつがあるかなと。そのあたりは世の中の動向を見極めながら、細分化する嗜好に応えていきたいです。

小島 世代を超えて愛されていることもアシックスの魅力だと思います。うちの若いスタッフに話を聞くと、初めて履いたアシックスが「ゲルカヤノ 14」という人は少なくありません。若いときに愛用したスニーカーって、強烈に記憶に刷り込まれますよね。

上田 アイコニックな定番モデルが次世代へときちんと継承されるのはうれしいことです。スニーカーのベースはカルチャーであり、『アトモス』さんのようなスニーカーカルチャーのど真ん中にいるショップの意見は、私たちにとって刺激になります。今後もインスピレーションを与えていただきたいですし、私たちに足りないものをインプットしてくれることを期待しています。

小島 『アトモス』は東南アジア諸国への出店を進めていますが、現地から寄せられるアシックスに関する問い合わせの件数は増える一方です。『アトモス』のコンセプトは「東京から世界へ」。日本が誇るブランドであるアシックスの魅力を、もっと海外へ発信していきたいですね。

 

#02 小島奉文(アトモス)×斉藤建太郎&石井拓人(アシックス スポーツスタイル 開発部)

『アトモス』の小島奉文(右)と、アシックス スポーツスタイルの開発担当者たち。左は開発部マネジャーの石井拓人、中央は開発部部長の斉藤建太郎。

スポーツで培ったテクノロジーを、
いかにライフスタイルへ落とし込むか。

小島 おふたりは開発担当とのことですが、具体的にどういった仕事をしているんですか?

石井 アシックス スポーツスタイルの製品は、まずはプロダクトマネジメントチームが企画を考えます。どんなターゲットに、どんな価格帯で、どんなコンセプトで製品をつくるのか。その企画が決まったら、デザインチームがデザインを制作します。そこから先が、私たち開発チームの仕事です。デザイナーが考えたデザインをベースに、製靴工程をイメージしながら、機能性や外観、作業効率やコストも考慮したうえで、工場へサンプルを発注。サンプルの仕上がりをチェックし、必要に応じて出し戻しをして、OKなら生産チームへと引き継ぎます。

小島 なるほど。なんとなくわかった気がしますが。

斉藤 噛み砕くと、平面までつくるのがデザイナーの仕事で、その平面を立体にするのが私たち開発の仕事です。

小島 だいぶ噛み砕きましたね(笑)。よく理解できました。スニーカーの開発で意識していることはありますか?

斉藤 スポーツで培ったアシックスのテクノロジーを、いかにライフスタイル向けの製品へと落とし込むか。そこはかなり強く意識していますね。

石井 最近は復刻の製品が増えていますが、昔のモールドやパターンのデータが残っていないことも。ゼロからつくらなければならないとなったとき、かつてランニングのためにつくられた設計や素材を、どうやって普段履きにふさわしいものへとアレンジするか。そこを工夫しながらかたちにするのが、私たち開発チームの重要な役割であり、腕の見せどころです。

石井 具体例として「GT-2160」のケースを紹介します。もともとこのシューズはオーバープロネーションのランナー向けの「GT-2000」シリーズがベースになっていて、ソールには着地時の倒れ込みを防ぐ硬い素材が入っていました。ただ、それをそのまま入れてしまうと、普段履きには過剰なものになってしまう。そこで「GT-2160」では硬い素材をあえて入れず、ソールを柔らかくすることで、普段履きにおける快適性を高めているんです。

上から、スキュートイドGELを搭載した「GEL-QUANTUM KINETIC」「GEL-QUANTUM 360 VIII」のC.P.カンパニーとのコラボレーションモデル、「GT-2160」のインラインモデル。

小島 復刻といっても、昔のものを完コピするわけではないんですね。

斉藤 昔のモールドやパターンのデータが残っていたとしても、それをそのまま使ったところで、当時の本物らしさが出るとは限りません。むしろ、昔のシューズを定規で測ったりしながら、ゼロからつくり直したほうが良いことも。

石井 レーシング系のランニングシューズを復刻する際、当時のラストをそのまま使用すると足入れがタイトになってしまうことも。その場合は、ラストを変えるなどの調整を加えます。ただ、「昔のシルエットを忠実に再現してほしい」というお客様もいるので、どこまで調整を加えるかは難しいところです。

斉藤 一方、「GEL-QUANTUM KINETIC」や「GEL-QUANTUM 360」など復刻ではないモデルに関しては、アシックスのテクノロジーを前面にアピールできます。スポーツ工学研究所と密に連携し、様々な評価試験で得られたデータを活用しながら、最適な設計を目指します。

小島 スポーツ工学研究所との連携を通じて履き心地を高められるのは、アシックスの強みですね。

石井 まさに。履き心地に関しては他社に負けたくないという思いで開発に取り組んでいます。

斉藤 また、最近人気の2000年代のランニングシューズに限らず、アシックスには多種多様なアーカイブがあり、一足一足にストーリーがあります。それもアシックスの強みかなと思いますね。

※本記事は、『SHOES MASTER』Vol.41(2024年3月29日発行)の特集記事を再編集したものです。

取材協力:アシックスジャパン株式会社

INFORMATION
アシックスジャパン カスタマーサポート部
0120-068-806
www.asics.com

pagetop