Photo : Yuta Okuyama (Ye)
Edit & Text : Shin Kawase
“hide-base project”, a new brand
in Kojima, Kurashiki City,
Okayama Prefecture
本誌春夏号で紹介した岡山県倉敷市児島の製靴工場が立ち上げたニューブランド、ハイドベースプロジェクト。ブランド名の「ハイドベース」とは隠れ家を意味し、職人たちが集まり、モノづくりに励む場所を目指す、という想いが込められている。我々、編集部は、その現場がある岡山へ飛び、スタッフと工場を取材した。(インタビュー取材:2023年5月下旬)
岡山県倉敷市児島は、本州と四国を結ぶ瀬戸大橋に程近い所にある。児島は、アメリカで生まれたジーンズを日本で初めて国産化したジーンズ発祥の地であり、デニム、モノづくりの場所として知られる街。数多くの国産ジーンズメーカーが集結する聖地、児島ジーンズストリートには、国内外から沢山の人が訪れる観光名所にもなっている。ハイドベースプロジェクトは、児島発の人気ブランド“BIG JOHN”(ビッグジョン)の工場跡地に存在していた。代表の杉山 優氏と工場長の逸見清美氏にインタビューを行った。
About
hide-base project
Yu Sugiyama
(hide-base project representative)
Interview
杉山 優/ ハイドベースプロジェクト 代表(TOSTO(株))
杉山 優(すぎやま ゆう)
1978年、岡山県倉敷市生まれ。小学生時代はソフトボール、中学は軟式野球、高校、大学は硬式野球部に所属する。大学1年の当時、交際相手を亡くし、人生観が一変。バックパッカーとしてタイ、カンボジア、ニュージーランドなどを放浪する。大学卒業後、卒業高校の非常勤講師として野球部コーチを務める。その後、地元でのモノづくりを志し、倉敷市のシューズメーカーにて13年間、様々な靴作りを手掛ける。2017年、TOSTO(株)に入社。児島にスニーカー工場(岡山工場)を立ち上げ、2022年に夢だった自身のブランド、ハイドベースプロジェクトをスタートさせている。
About Sneaser by Yu Sugiyama
(個人的なスニーカー変遷)
–––まずはじめに杉山さん個人のことをお聞きします。はじめて自分で買ったスニーカーを教えてください
自分の小遣いで初めて買ったのは、中学2年の時、ジョーダン 6ですね。バスケ漫画の『SLAM DUNK』に影響を受けた世代で、それから高校、大学と雑誌『Boon』を毎月愛読してスニーカーを買いまくりました。もちろん、買えないスニーカーも多かったですけど。当時はネットも普及してなかったので、母親に頼んで現金書留でお金を送ってもらって通販で、アディダスのアディマティックやプーマ スウェード、コンバースのウェポンとか色々買っていました。高校生の頃、復刻版のジョーダン 1が買えた時は本当に嬉しかったです。今まで300足以上は買って履いてきたと思います。あと、倉敷市出身というのもあって、デニム、アメカジも大好きで、スニーカーだけでなく、レッドウィングのアイリッシュセッターもよく履いていました。
–––杉山さんが考える他の靴にはない「スニーカーの魅力」とは何でしょうか?
外出する時、普通は服を着替えて、靴って一番最後じゃないですか。僕は靴中心で何を履くかが一番大事でなんです。靴で洋服が全部決まってしまうぐらいの位置付けで。今日はこれ履こう、じゃあ服何着ようか?みたいな感じなので、それは革靴とかにはないですよね。靴単体で、その他のコーディネートも引っ張るぐらいの力がスニーカーにはあると思います。何のスニーカーを履いているかっていうのが、自分のアイデンティティーを表すみたいな。一番象徴的な自己主張のための道具というか、履物だけどガジェットみたいな感覚がある所も魅力だと思います。
–––杉山さんが考える「いいスニーカー」の条件とは?
見た目のデザインはもちろんですけど、履き心地の良さも、ものすごく求めますね。靴を履いて家を出て、少しでも違和感あると一日中気になるじゃないですか。一度違和感があると、そのブランドの2足目はもう二度とないですもんね。いいスニーカーの絶対的な条件は、デザインと履き心地の良さですね。
–––個人的な「マイ フェイバリットスニーカー」のベスト3足を教えてください
難しいしいですね…。アディダスのアディマティック、スニーカーじゃないけどレッドウィングのアイリッシュセッター。もう一足は候補があり過ぎて決められないですね(苦笑)。最近のお気に入りは、ホカやオンが好きでよく履いています。
About hide-base project
(ハイドベースプロジェクトについて)
–––あらためてハイドベースプロジェクトをスタートさせた目的を教えてください
ずっとOEM※をやってきたので、自分の趣味趣向を入れたモノづくりがしたかったんです。その考えの中心は、靴なら何でも作れる経験を重ねてきたことが強いかなと。せっかく何でも作れるんだから、自分をスニーカーで表現したいっていう想いでハイドベースプロジェクトをスタートさせました。
※OEMとは、Original Equipment Manufacturerの略で他社ブランドの製品を製造すること
–––作れるスキルがあるので、実際に自分で作って見せたかったっていう
そうですね。OEMでは要望があれば何でも作れる自信があるから、機は熟してっていう感じで。やっぱり、いずれは自分のブランドを、っていう気持ちはずっとありました。
–––それはいつぐらいからあったんですか?
靴の世界に入った瞬間からでした。OEMをやりながら、やっぱり自分の好きなスニーカー作りたいっていう気持ちも同時に持ちながらずっとやってました。それは中学2年生の時、ジョーダン 6を買った時から潜在的にあったかもしれないですね。靴作りを20年間やってきて、それが去年、ようやく形になって実現したって感じです。
–––スタッフ構成を教えてください
工場内は、私と工場長と裁断1名、縫製1名。成型4名と仕上げで2名。私と工場長は、どこの工程にも入る形で作っています。
–––ハイドベースプロジェクトの杉山さんの肩書、役割っていうのは?
ハイドベースプロジェクトに関しては、自分が代表なんで、プロデューサーかな。スタッフ皆でミーティングして、一緒に企画してって感じではなくて、僕が企画、デザインして、実際に作ってみて、「こんなん作ったけど、どう?」っていう。作って見せる感じですね。ゼロからすべて一人で作れるので。そこからスタッフの意見を入れてブラッシュアップしていく感じですね。
About First model product
(ファーストモデルのプロダクトについて)
–––あらためてファーストモデルのコンセプト、特徴を教えてください
モデル名のオリジン(Origin)という名前にもあるように、スニーカーを連想した時に、この形を連想する人が多いと思って。いわゆるスニーカーを好きな方が一番入りやすい入門編として、ザ・スニーカーとう形のローカットとハイカットにしました。
hide-base project
First model
Origin-Lo , Origin-Hi
–––製作過程でこだわった所と一番大変だったことは?
革の厚さですね。補強するライニング(足入れ部分)が付かないで、このいい厚さを成立させること。有名な姫路レザーを使いたくて、姫路のタンナーさんにお願いして。この革に至るまでも何回も試行錯誤したから半年以上かかっているんです。クロムなめしではなく、タンニンなめしなので、色が褪せていく経年変化が楽しめ、長く付き合える一足に仕上がっています。
–––シューホールが金具じゃないですね
はい。シューホールは菊穴ミシンを使って縫ってあるんです。靴では絶対に使わないと思いますけど。菊穴ミシンは、洋服屋さんがボタンホールのかがり縫いをしたり、ベースボールキャップの横の空気穴とかに使ったりすることが多いですね。
–––シューホールに金具を使わなかった理由は?
金具だとシルバーかブラック、あとは塗装して剝がれるようなハトメとかしか選択肢がないんです。菊穴ミシンを使うと色を糸で変えられるっていう汎用性もあり、他メーカーがやってないっていうことから、このシューホールにしました。
そして、インソールもハイドベースのためにモールドを起こして、素材は湿気を吸って吐いてくれるコルク素材を使用しています。いいスニーカーの条件は、「履き心地が良いこと」それは絶対的にクリアしたいし、次に買う時にもそれが絶対条件なので。
–––苦労して完成したファーストモデルをどんな人に履いて欲しいですか?
自分達の背景に共感してくれて、応援してくれる方に履いてもらえたら嬉しいですね。年齢で言うとやっぱり自分世代の40代の方とか。いわゆる雑誌『Boon』にやられて、スニーカーにやられて、青春時代をスニーカーにつぎ込んだスニーカーヘッズ。そして大人になった今でもスニーカーを愛し続けている『SHOES MASTER』世代の方に履いてもらえれば最高ですね。サイズレンジがユニセックスなので、ファミリーで履いてもらえたら理想的です。
hide-base project
First model
Origin-Lo ¥18,700, Origin-Hi ¥19,800
About Second model product
(製作途中のセカンドモデルのプロダクトについて)
–––今、製作途中のモデルのコンセプト、特徴を教えてください
はい。コンセプトはファーストモデルから継続しています。自分たちの想う、履いてほしい人がファーストモデルを買った後に欲しいなって思うであろう形に落とし込んでいます。
–––サンプルを見せて頂けますか?
はい。種類は、いわゆるデッキシューズとローファー、サイドゴア、ワラビー。スニーカーとしても作るのが可能で、形としてもスタンダードな4モデルを現在製作中です。秋冬コレクションとして2モデルをリリースする予定になっています。若い時にスニーカー大好きな時代を過ごしてきて、年も過ぎてきて、今の若い世代が履いているスニーカーもいいけど、ちょっとだけ落ち着いたものも欲しいなと思う人が、目を付けてくれたらいいかなって感じですね。
–––各モデルの特徴を教えてください
デッキシューズタイプは、セカンドモデルの中では、もっともスニーカーらしいモデル、ということにこだわりました。究極にシンプルなデザインながら、タイムレスで履ける「シンプル・イズ・ベスト」な一足と言えますね。ファーストモデル同様にシューホールに金具ではなく、菊穴ミシンを使って糸で縫っているのが特徴です。
次のローファータイプは、セットアップやフォーマルなシーンでも履いてもらえるように作りました。特徴は、履けば履くほど革がどんどんなじんでくることです。楽に脱ぎ履きできるだけなく、足なじみがいいように成型してあり、甲部分のパーツはビーフロールという手縫いで作っています。機械と違うのでいわゆる個体差があり、ちょっと不均一になるのを楽しめるだけなく、革の具合によって手で締める力を調節できます。機械で一律に縫うと、調節が効かずに糸が負けて切れる時があるので、個体差はあるけど、そこがいわゆるハンドメイド、自分たちの手で作ることの「味」だと思っています。
サイドゴアハイは、フィット感のあるサイドゴアを作りたかったんです。僕もたくさんサイドゴアを持っていますけど、締まり具合のいい塩梅のサイドゴアってすごく難しいんです。下手したらすぐに抜けそうになりますし。もちろん人によって足の形やサイズの合う、合わないもあるんでしょうけど。このサイドゴアは革がなじんで伸びてくれるので、最初きつくても自分に合うフィット感になっていきます。僕が持っている中で一番のサイドゴアが完成しそうです。
最後のワラビーは、今最も自分が履きたいワラビーを作りました。ワラビーを何足も買って履いた経験から、やっぱりクラークスのナタリーって履き心地がいいですよね。ナタリーの包むような足入れは自分も再現したいと思ってマイベストワラビーを作りました。ワラビーのモカの部分ハンドステッチしているんでサイドゴア同様にフィット感がある履き心地と見た目の個体差が特徴の一足になっています。
hide-base project
2023 FALL/WINTER
COLLECTION
hide-base project
2023 FALL / WINTER
Chelsea
¥22,000
hide-base project
2023 FALL / WINTER
Moca
¥22,000
About hide-base project Philosophy
(ハイドベースプロジェクトの哲学)
–––他ブランドにはない「ハイドベースプロジェクトのプロダクトの魅力」とは何でしょうか?
いい意味で他のブランドがやらないことをやっている所ですかね。厚い一枚革だったり、菊穴ミシンを使ったり、すべて金型を作って、モールドを起こしてインソールも作ったり。他にないものを集約して、ひとつのプロダクトに落とし込んでいる。スニーカー好きの僕が今までで培ってきた理想のスニーカーをすべて自社工場で出来るのがハイドベースプロジェクトの魅力かなと。
–––杉山さんが考える「理想的なデザイン」とは、どんなデザインですか?
やっぱり昔に夢中になった、持ってて楽しい、履いても楽しいっていう時代のスニーカー。今後はもっと、自分の当時のスニーカーの感じが出せるようなモデルも作りたいと思っています。なので、置いてもいいし、履いてもいいっていうのが理想的なデザインだと言えますね。
–––杉山さんがプロダクトを企画、製作する上で一番大切にしていることは何ですか?
やっぱり自分が履きたいって思うものを作ることですね。そこに尽きます。そして履き心地がいいこと。自分が靴を作っている以上、そこは最低限というか当たり前かなって。履き心地が良くなければ靴じゃないと思っていますから。
About
hide-base project
Kiyomi Henmi
(hide-base project Factory manager)
Interview
逸見清美 / ハイドベースプロジェクト 工場長 (TOSTO(株))
–––ハイドベースプロジェクトに参加することになった理由を教えてください
もともとOEM(他社ブランドの製品を製造)メインの自社工場だったんですけど、2016年、大人の女性に向けにTシャツのようにカジュアルで自由な靴をテーマしたブランド、スワンアルバーグをスタートさせました。
スワンアルバーグは、自分達で企画、開発、製造販売まですべてやっています。実際にやってみてはじめて、数多のシューズブランドがあるけど、一連の流れですべて自分達の手でやれるって、すごく恵まれた環境だなって感じたんです。OEMと違って、大変なことのほうが実際は多いんですけど。
そしたら昨年、杉山から「長年の夢だった自分のブランドをやりたい」って相談されたんです。もちろん「杉山さんが好きなスニーカーを全力で作れば」ってすぐ賛同しました。一緒にモノづくりをゼロからやれるって環境があるし、私も女性目線で参加して手伝うからみたいな感じで。
–––ハイドベースプロジェクトの製作過程で一番こだわっている所は?
作業工程がそれぞれ分担されて、一つ一つの工程がとても細かいんですけど、全部自分達がやるからこそ、手を抜かず一個一個、丁寧に自分達が満足するものを妥協せず、って感じですかね。
–––これでいいかと思ったら、いい世界ですよね
そうなんです。だからいつも自分との戦いです。手作業になるので同じ作業をしたとしても、やっぱり作り手の個性ってどうしても出てしまう。同じモデルでも個体差が出るんです。
–––その辺の線引きが難しいですね
すべてが私の判断にかかっています。しっかりその判断基準を持ってないと指示したスタッフもぶれてしまうので、自分の中での明確な線引きを持つように心掛けています。でも、スタッフがこれでOKかと思ったら駄目で、これ駄目かと思ったらOKみたいなことは稀にあると思います。私も人間なので、その時々で人の目って変わるし、その線引きはすごく難しいですね。
–––他の日本製にはないハイドベースプロジェクトの優れている所とは?
決して優れているとは言えませんが、他にはない特徴としては、自分たちの手でできることはすべてやっている所です。絶対に個体差は出るけどいい意味でこだわりながら頑張って、それを味って世の中に送り出していることがハイドベースプロジェクトの特徴であり個性だと思います。
–––スタッフは皆さん地元の方ですか?
スタッフは9人ですけど、1名だけ県外からですね。デニムの街といわれる所で生まれ育った人たちが、またモノづくりを志してここの工場で靴を作っている。まだ小規模で9人ですけど、個人の個性っていうものをすごく大事にしたいと思っています。
–––今後は規模を大きくしていく予定ですか?
はい。自分たちがいつまでも元気とは限らないし、体力的な問題もあるので、若い世代のスタッフを増やしていきたいと思っています。この地域ではモノづくりを志す若い方が、他の地域と比べると多いと感じてます。染め工場や縫製工場などはデニム、アパレルが多く、靴の工場自体は珍しいんですけど。モノづくりをやりたいと、わざわざ児島の地域に全国から集まってくるみたいなイメージはありますね。
–––ハイドベースプロジェクトをどんな人に履いて欲しいですか?
ファーストモデルもいいですけど、セカンドモデルのデッキシューズ、ワラビー、ローファー、サイドゴアはファーストモデルに比べると、よりユニセックスな感じに仕上がっていると思います。なので、ご夫婦で履いてもらえたら嬉しいですね。ECの販売がメインで、なかなか手に取ってもらう機会がないので、そこがすごく残念なんですけど。ここの岡山工場(倉敷市児島)に来ていただければ試履きもできますし購入も可能です。いつでも歓迎しますのでご興味があれば、児島の街見学含めご来場ください。お待ちしております。
取材協力:岡山工場 (TOSTO株式会社)
岡山県倉敷市児島上の町4-13-12
086-441-2005
編集後記
倉敷市児島は、瀬戸内海の優美な島々を見渡せる風光明媚な街である。今回訪れた岡山工場は、児島の自然溢れる環境にありながら、岡山駅から約30分、最寄りの上の町駅から徒歩5分という便利な場所にある。時がゆっくりと流れる様な雰囲気を満喫しながら工場に入ると、手作業でスニーカーに黙々と向き合うスタッフの姿があった。代表の杉山氏は、自身がスニーカーヘッズだった経験を活かし「継承されずに眠る、日本のモノづくりを次世代へ」をコンセプトに、大人が履きたくなるスニーカーをこの場所で作っている。効率が優先される現代のスニーカービジネスにおいて、手作業の味こそがハイドベースプロジェクトの存在意義であり、価値である。彼らの夢はまだ始まったばかりだ。児島で生まれ、児島で育つ彼らをこれからも見守っていきたい。
SHOES MASTER編集部
INFORMATION
TOSTO株式会社
0562-57-0208 (担当:石川)
hidebaseproject.com